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最貧国で社会保障の財政余地をつくる8つの方法

Photograph: CAFOD Photo Library
Photograph: CAFOD Photo Library

後発発展途上国(LDC)でさえ社会的保護(社会保障)制度の財源を捻出することができるかもしれない。先月出版された報告書(Fiscal Space for Social Protection in the Poorest Countries)の中で 、国際労働機関(ILO)のイサベル・オルティス社会的保護局長は8つの方法を示している。その概要をコメントを付けてまとめた。

公共支出の再配分(Re-allocation)

コストが高く成果の上がっていない投資を費用対効果のより高い案件に再配分すること。どの案件へ投資するのがよいのか判断するためには、既存のパイロット案件が計量分析を行うことができるような精緻なデータを収集していることが不可欠となる。案件実施の過程で精緻なインパクト評価を想定しているかが大きな課題となる。社会的保護関連のパイロット案件はしばしば、異なる開発パートナーやドナーの意向で実施される。それらの組織や案件担当は必ずしもインパクト評価に精通していなかったり、重視していない場合も多く、データの欠如を理由に費用対効果分析を行うことができないことが多い。

税収の増加(Tax revenues)

財政余地を拡大させるためには、税収を増やす必要がある。累進課税(Progressive Tax)と逆進税(Regressive Tax)をうまく使い分け、低所得者層の負担にならない形で課税を検討する必要がある。

社会保障カバレッジの拡大と保険料の徴収(Coverage and contributory revenues)

税収で賄う生活保護などの社会扶助(Social Assistance)の対象者を減らし、保険料の徴収が見込める社会保険プログラムへ移行させていくことが財政余地の拡大につながる。本人負担のあるプログラム(Contributory)と税収で賄うプログラム(Non-contributory)をバランスよく運用することは、特に中所得国で重要となってくるだろう。中所得国ではより多くの人々が最貧層から抜け出し、企業勤めのサラリーマンが増加する。公式経済(Formal Economy)の拡大に伴い、保険料の定期的な徴収によって社会保障を運用していく体制を作ることが、税を財源とする財政余地の縮小を緩和するだろう。国の発展段階のどの時点から税収によらない社会保障制度の運営を拡大させるかが、議論のポイントとなる。

援助業界に対するロビーイング(Lobbying for aid)

開発パートナー やドナーへ財源の提供を求めること。事実、開発途上国における社会的保護プログラムの多くは途上国の自己財源では賄われていない。しかし、中長期的にプログラムをスケールアップし、持続的に運営していくためには、開発途上国政府のオーナーシップが不可欠となる。いかに早い段階でドナーから自立できるかが課題となるだろう。

不正な資金の流出を食い止めること(Eliminating illicit financial flows)

全てのセクターに共通の課題であるが、開発途上国では不正な資金の流出を食い止めることが財政余地の拡大に直結する。

財政・金融政策の活用(Fiscal policy/Central bank foreign exchange)

ソブリン・ウェルス・ファンド(天然資源による収入や外貨準備高を原資とした政府出資ファンド)などを活用し、低所得者層へ還元する仕組みをファイナンスすることも一つの方法である。既得権益や政治思想に依拠するところが大きく、強力な政治的意思(Political Will)とリーダーシップが必要となることは想像に容易い。

借入と債務整理(Borrowing / Restructuring existing debt)

比較的有利な条件であれば国内外からの借り入れも有効であり、債務整理も有効な手段である。実際に、60ヶ国以上が債務整理に成功し、それによって生まれた資金を社会保障へ振り分けることができている。貸し手が社会保障に理解を示すかどうかが課題だろう。インフラ投資と違い、社会セクターへの投資は短期的な収益にはつながらない。債務整理の結果、短期的なリターンが見込めないセクターへ投資することについて、貸し手側がどう判断するかがポイントとなるだろう。

景気刺激型のマクロ経済政策(Accommodating macroeconomic framework)

財政赤字と高いインフレ水準にあってもマクロ経済が不安定にならない経済構造。世界同時不況のとき、多くの開発途上国が財政緩和政策をとり、赤字支出と景気刺激型のマクロ経済政策を展開した。

 

参考資料

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