シリア

人道と開発の連携

Photograph: Naoki Nihei
Photograph: Naoki Nihei

国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局ジャパンユニットの二瓶直樹です。昨年12月、スイス・ジュネーブの国連難民高等弁務官(UNHCR)本部を訪問し、今年5月にトルコのイスタンブールで開催される「世界人道サミット(WHS)*」に向けて、難民支援のためにUNDP、UNHCRが日本政府とどのような連携を進められるのかを協議しました。

ジュネーブは、国連事務局の支部、UNHCR、世界保健機関(WHO)、国際移住機関(IOM)等の国際機関の本部が集まる国際都市で、〝国連の街〟とも言える都市です。UNDPはジュネーブに代表事務所を置き、スイス政府との連携業務に加えて、人道問題に関して、UNHCRやIOMと連携・調整業務を担っています。

皆さんもニュース等でご存じの通り、2015年、特に9月以降は、中東から欧州への難民・移民の大移動が社会に大きな影響を与えました。シリア国内の不安定な情勢から端を発した人の移動は、これまではシリア周辺国であるヨルダン、レバノン、イラク、そしてトルコに留まることが通例でした。しかし、トルコ国内でシリア難民は既に230万人を超すと言われる中、難民はシリア周辺国に留まるのではなく、より安全で、社会保障が充実する国を目指しました。その結果、人の大移動が欧州に向けて起きました。

この大移動は、主にトルコや地中海を経由し、ギリシアからバルカン半島(セルビア、マケドニア、クロアチア)を通過してシェンゲン協定国*のドイツやスウェーデンをはじめとする難民への社会保障制度が整う北欧諸国に向いていました。更に、この人の大移動は、シリア難民だけではなく、不安定な情勢が続くアフガニスタン、イラクなどに加えて、政情不安、貧困、抑圧等の理由からアフリカやアジアの様々な国からも入ってきた人々が多くいます。

前回の最前線レポートで寄稿した2015年のセルビア訪問時に、難民が通過するセルビアとクロアチア国境のシド(Sid)国境通過点の現場を見てきました。シド鉄道駅近隣には、UNHCRやIOMが支援する難民テントが多く張られていました。また、他国からセルビア国内を通過してシドに到着した難民の行政手続きを支援する受付所がセルビア政府により設置されており、難民が休息するテント、仮設トイレ、水供給・衛生施設などを人道支援機関やNGOsが支援していました。

また、欧州バルカン半島の南ギリシアと国境を接するマケドニア旧ユーゴスラビア共和国(以下、マケドニア)の南部に位置するゲフゲリア(Gevgelija)という街でも難民通過地点の現場を視察しました。2015年9月以降、ピーク時は1日約1万1000人がゲフゲリアを通過し(ゲフゲリアの人口は約1万5000人)、同年12月時点では毎日約4000人の新しい難民が通過していくと関係者は指摘していました。人の移動においては、セルビアとクロアチアのシド国境と同様に、難民を管理・保護するための支援が人道機関により行われます。シドもゲフゲリアも難民の大量流入により、自治体の対応能力が限界に達し、国際社会の支援を必要としています。

UNDPは、難民を受け入れるホストコミュニティ、地方自治体による自治体の基礎社会サービスの面において支援をしています。特に、ごみ処理対応や水供給サービスを中心として、一時的な人口増による社会インフラ面の支援を主に担っています。また、難民をホストする自治体で地元住民の理解促進、啓発事業にも取り組んでいます。ボランティアを動員し、難民を受け入れる自治体の対応能力の強化も支援しています。

このような協力は、既に日本の資金援助により、UNDPが中東のヨルダン、シリア、レバノン、イラク等で流入するシリア難民や国内避難民(IDPs)に対して行っているものです。シリア危機以後は、シリア難民が周辺国へ大量に流出しており、周辺国の地方で多くの難民がキャンプ内外で生活をしています。欧州への難民の動きと異なり、シリア周辺国では、トルコを始めキャンプ外で、難民がホストコミュニティの中で生活する状況が続いています。この状態が長期化し、周辺国の対応、収容能力に限界が出たことが、2015年9月以降の難民の欧州への大流出と関係しているとも考えられます。

これまで、紛争や災害後に発生する難民、避難民をUNHCR等の人道支援機関が支援し、紛争状態や災害後の状況が一段落すると、難民、避難民は元の居住地域へ戻りますが、その際に彼らが社会生活を送れるように支援する段階へと移ります。そこで、支援の主役が人道・緊急援助機関より、UNDPや開発援助機関へ移行することになります。このような状況下では、継ぎ目のない支援(Seamless Transition)を行うことが、人道・緊急支援から開発援助へ段階移行する際の重要課題となっていました。

現在世界で起こっているシリア難民の動きのような人道危機は、長期化する様相を呈しており、従来の支援アプローチでは十分ではなくなっています。難民の移動が絶えず長期化する事態においては、難民への人道支援と、難民を受け入れるホストコミュニティへの支援が同時平行で、双方を補完仕合いながら実施し、効果をあげることが重要課題となります。日本政府もこの課題への対応を重要視しており、人道支援機関のUNHCRと開発援助機関のUNDPが連携し、危機に対して、人道面と開発面から包括的に合同で支援策を計画しています。近年シリアやその周辺国でそれを実践しています

シリア危機をはじめ、世界各地において、現在そして将来、危機に対する人道と開発の連携がこれまでより一層重要となっています。5月の世界人道サミットは人類が直面する危機に如何に世界と国連機関が取り組むのかを考える大きな契機となります。UNDPはこれまでそして現在、現場にて支援している活動の教訓をもとに、日本を始めとする加盟国と協力して貢献していくことになります。

今回のジュネーブでのUNDPとUNHCRでの事務レベル会合では、今後日本政府と連携して取り組む活動において、各機関がホストコミュニティ支援と難民支援を同時平行して行う際に、早い段階から3者で連携して総合的な援助を実施することで一層効果の高い支援を行う方針、そして世界人道サミットに向けて協力体制を深めることが確認できました。

さて、最後に私事ですが、1月末でUNDP本部での勤務を終えるため、この連載は今回が〝最後〟となります。これまでお読みくださった読者の皆様にこの場を借りて深く感謝申し上げます。私としては、UNDPが日本と連携して世界中で取り組む様々なグルーバルな課題を現場での視点を中心に、少しでも分かりやすくお届けしようと努力致しました。今後はまた立場を変えて、開発の業務に取り組んでいきますが、また世界のどこかで皆様とお会いできることを心より楽しみにしております。

 

世界人道サミット

2016年5月23日、24日の2日間、トルコのイスタンブールで開催。サミットでは、今後、人道危機に対して国際社会がどのような行動を取るべきか、また効率的・効果的な人道支援を議論するため、各国政府や国際機関等のリーダーが集まり、議論する。相次ぐ紛争や自然災害、急速に進む人口増加や深刻な貧困、気候変動の影響などで、世界で発生する人道危機はより複雑化、大規模化、長期化している。人道危機は形態が様々になる一方、新興国ドナーや民間セクターなど、関与するアクターが増加、多様化している。このような状況の中、人道サミットは、全アクターが将来への連携を模索する契機となる。サミット事務局は、国連人道問題調整事務所(OCHA)が務める。

 

シェンゲン協定

1985年にルクセンブルクのシェンゲンで署名された、共通国境管理の漸進的撤廃に関する協定(1985年シェンゲン協定)および1990年に署名されたシェンゲン実施協定からなる。1985年に協定に署名した国はフランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの5か国のみであったが、現在はEU加盟27か国のうち22か国がシェンゲン領域に参加している。また、EU非加盟のノルウェー、アイスランド、スイス及びリヒテンシュタインがシェンゲン領域に参加している。

 

国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ウェブサイトより転載

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