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開発途上国の貧困の定義と計測方法のまとめ

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開発援助の実務をイメージで理解する - 第一回「貧困の定義と計測方法」

不定期連載コラム「開発援助の実務をイメージで理解する」。第一回は、「貧困の定義と計測方法」。日々のニュースで「貧困率」「子供の貧困」「女性の貧困」など、貧困について耳にすることが増えてきた。しかし、実際にどのように貧困が定義され、貧困率が計算されているかご存知だろうか?

このコラムでは、開発途上国の実務の現場で使われる専門用語や分析手法をわかりやすく、イメージで理解していただくことを目指している。

 

 

貧困の定義

貧困層とは何か。哲学的な議論は多々あるだろうが、ここでは実際に広く使われている定義をご紹介する。貧困の定義は、まず大きく2つに分かれる。開発途上国で一般的に使われる絶対的貧困と、先進国で使われる相対的貧困。それに加え、最近脚光を浴びている多元的貧困。この3つが実務の現場で使われている一般的な貧困の定義だ。

 

絶対的貧困とは?

絶対的貧困(Absolute Poverty)は、開発途上国における貧困の定義。ある一定の所得・消費水準(これを貧困線と呼ぶ)に満たない人々を貧困と定義する。絶対的貧困は開発途上国の貧困を計測する際に用いられる定義だ。詳しくは、後述の「貧困指標」を参照いただきたい。

相対的貧困とは?

相対的貧困(Relative Poverty)は先進国における貧困の定義。「所得(等価可処分所得)の中央値の半分に満たない人々」を貧困と定義する。たとえば、国民全体の所得の真ん中が200万円だとすれば、100万円未満の人々を貧困とみなす。絶対的貧困と異なり、貧困の定義が中央値に左右されることから、「相対的」貧困と呼ばれている。

多元的貧困とは?

多元的貧困(Multidimensional Poverty)は、所得だけでなく、他の要因も加味した貧困の定義。絶対的貧困や相対的貧困が所得の多少によって貧困層を定義しているのに対し、教育や保健へのアクセスなどお金に換算できない指標も考慮して貧困を定義する。最も有名な例だと、国連開発計画(UNDP)の人間開発報告書において、多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)が採用されている。

 

貧困指標

開発途上国で使われる貧困の定義は、絶対的貧困と多元的貧困の2つだ。では、具体的にどのように使われるのだろうか。大まかに言えば、貧困指標は主に貧困率、貧困ギャップ、二乗貧困ギャップに分類される。また、最近では、多元的貧困指標も脚光を浴びている。ここでは、これらの貧困指標の算出方法について順番に解説していく。

 

データ

貧困指標を計算するには、データが不可欠だ。一般的に、家計調査・世帯調査を通じて、所得・消費、家族構成、就学状況、保健サービスの利用状況などの世帯情報をまとめて調査することが多い。

家計調査で世帯情報を集める

分析を開始するにはデータが必要だ。こうしたデータ収集のことを、一般的に家計調査・世帯調査(Household Survey)と呼ぶ。一番正確なデータを集めるには、国民全員に調査票を配布してデータを集める国勢調査(Census)がベスト。

しかし、数千万人~数億人を対象に調査することなど、予算的にも開発途上国において実施することは不可能だ。そのため、数千~数万件の世帯を調査することで代替することが一般的となっている。統計学の複雑な話はここでは省くが、統計の専門家が上手く調査方法をデザインすることで、小規模のデータ収集で、全国の貧困率を推計することができるというわけだ。

家計調査のデータの入手方法

自分で実施することも可能だが、実務家の場合、既存のデータで事足りることも多い。例えば、世界銀行が広く実施している世帯調査(The Living Standards Measurement Study: LSMS)は代表的な調査事例だ。また、最近はオープンデータ化が世界的に進んでおり、世界銀行や各国統計局のウェブサイトからも簡単に入手できるようになっている。

データ分析に使うソフトウェア

データ分析を行うには、STATAが一般的に使われるソフトウェアだ。日本の大学では、SPSSがよく使われるようだが、開発業界ではSTATAが一般的となっている。もちろん、貧困指標を計算するだけであればExcelでも十分だが、既存のデータのほとんどはSTATAかSPSSで作成されているため、Excelでは開くことができないだろう。

 

貧困線(貧困ライン)とは?

貧困線(Poverty Line)は、貧困を定義するためのボーダーラインのこと。「1日1.25ドル以下で生活する人を貧困層としよう」といった風に線引きを行うことで、貧困層とそうでない人を分ける目安だ。基本的には、1日当たりの必要最低限の生活水準をお金に換算して定義される(必要最低限のカロリー・栄養のある食事+生活必需品の金額)。

ところが、注意しなければならないのは、貧困線は普遍的ではないということ。「貧困線は必ずXXXドルにしよう」といった国際的な合意がない。それではどのように貧困線は決められているのだろうか。大きく分けて2パターンある。

国際貧困線(国際貧困ライン:International Poverty Line)

国際貧困ラインは、世界銀行や国連機関が基準として採用しているもの。国際的に影響ある機関が採用しているため、実質的にこれらの基準値が一般的になっているのが実情だ。世界銀行はこれまで、1日1.25ドル未満で生活を営む人々を貧困層と定義してきたが、2015年末に1.90ドルへ改訂することを発表した。国際貧困ラインを使うのは、国家間の貧困率を比較するときだ。全ての国を一つの基準で比較することで、貧困指標の国家間比較が可能となる。今後、国際貧困ラインを使って貧困率を比較したいときには、1.90ドルを基準に考えれば良いだろう。

国家貧困線(国家貧困ライン:National Poverty Line)

国家貧困ラインは、開発途上国自らが定めているもの。貧困層と最貧層を分けるため、貧困ラインを2段階定めている国が多い。当該国の通貨単位で定められることが一般的。

貧困プロファイルや経済レポートで、単に”Poverty Line”と記載されている場合、どちらの貧困ラインのことを言っているのか注意する必要がある。また、首都、都市部、農村部など、地域別に別々の貧困ラインを設けていることもあるため、注意が必要だ。

また、貧困指標の国際比較を行う際、国家貧困ラインで定義された貧困率を比べて議論している人を時折目にするが、これは間違い。国家貧困ラインは国ごとによって異なるため、国際比較をしたいのであれば国際貧困ラインを用いるべきだろう。

 

貧困率の計算方法

貧困率(Poverty Headcount Ratio)は、全人口に占める貧困層の割合のこと。英語の文献などでは、貧困率のことを「P0」と表現することもあるが同じ意味だ。

計算方法は、貧困ラインに満たない人々の数を総人口で割ればよい。計算式は、「貧困率=貧者の数/総人口」となる。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

 

貧困ギャップ率の計算方法

貧困ギャップ率(Poverty Gap Ratio)とは、貧困層の所得・消費水準がどの程度貧困線から乖離しているか(下回っているか)を示す貧困指標。そのため、貧困ギャップは「貧困の深度(Depth of Poverty)」と表現されることもあり、貧困の深刻さを計測する目安となる。

貧困率は、貧困層の人口に占める割合を計測する指標であり、貧困層が「どの程度貧しいのか」を表すことはできない。一方、貧困ギャップは、貧困線と貧困層の所得・消費水準の差がどれほどあるかに注目し、貧困の程度を表す指標だ。

これを応用すれば、貧困削減を完遂するために、最低でどの程度の所得上昇が必要なのかを見積 もることができる。特に、貧困層向けの社会保障制度給付金額の決定に際し、参考指標として使われることが多い。

計算方法を簡単に説明すると、「貧困ギャップ率=貧困線以下にいる人々の貧困ラインまでの不足額の平均」となる。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

 

二乗貧困ギャップ率の計算方法

二乗貧困ギャップ率(Squared Poverty Gap Ratio)は、貧困層間における格差に着目した指標である。貧困層と一括りに言っても、貧困ラインに近い人々もいれば、遠いところにいる人もいる。当然、貧困ラインから遠いところにいる人々が多い方が、貧困問題は重度ということになる。このように、貧困問題がどの程度ひどいのかを表す指標として二乗貧困ギャップが考案された。「貧困の重度(Severity of Poverty)」と表現されることもある。

文字通り、貧困ギャップから派生した指標。つまり、貧困層の所得・消費水準 の不足分(貧困ギャップ)を二乗することで、より貧しい人の状況を指標により大きく影響させようとしたのが、二乗貧困ギャップ率だ。

「貧困線直下に貧困層が密集している地域」と「貧困線よりもずっと下の方に貧困層が集中している地域」とを区別するためにこの二乗貧困ギャップ率が用いられるのである。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

 

多次元貧困指標の計測方法

最も有名な事例では、人間開発報告書で採用された多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)が記憶に新しい。貧困を所得・消費水準だけでなく、教育・保健サービスへのアクセスも数値化して組み込む指標だ。どのような指標を組み込むかは、統一見解はないが、MPIの構成指標はUNDPのホームページで確認することができる。

多次元貧困指標を開発した研究チームは、オックスフォード大学貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)のアルカイア教授。実務家向けの参考文献や講義ビデオを無料で公開しているので、関心のある方はこちらを参照してほしい。

 

※記述に間違いがある場合、ご要望がある場合は、コメント欄かメールでお知らせください。PDFはこちら。WORDはこちら

 

参考文献

実務家向け入門編

  • World Bank. 2010. Handbook on Poverty and Inequality (PDF) (BOOK)
  • Reading List of University of Sussex (PDF)

学問的に学びたい方向け学術書

  • Ray. 1998. Development Economics (BOOK)
  • Todaro. 2015. Economic Development. (BOOK)
  • 戸堂. 2015. 開発経済学入門 (BOOK)
  • ジェトロ. 2015. 開発経済学 (BOOK)
  • 渡辺. 2010. 開発経済学入門 (BOOK)