タジキスタン

タジキスタンの開発現場から

LITACAによるコミュニティインフラ整備事業で設置された太陽熱による温水供給施設により裨益を受けた地域住民
LITACAによるコミュニティインフラ整備事業で設置された太陽熱による温水供給施設により裨益を受けた地域住民

国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局ジャパンユニットの二瓶直樹です。

第1回の最前線レポートでは、タジキスタンのアフガニスタン国境周辺の地域開発プロジェクト「タジキスタン-アフガニスタン国境地域生活改善計画(LITACA)」について紹介しました。LITACプロジェクトの進捗報告が、今夏UNDPタジキスタン事務所にインターンとして配属されていた米国コロンビア大学公共政策大学院の高橋直子さんから届きました。今回はタジキスタンの“現場”からその進捗をお届けします。

LITACAは、2014年3月から2017年2月の3年間に渡るプロジェクトで、日本政府が国際協力機構(JICA)を通じて1070万米ドルを拠出し、UNDPタジキスタン事務所が同アフガニスタン事務所と協力して実施する“国境を越えた”取り組みです。目的は、タジキスタンのハトロン州(Khatlon)、アフガニスタンのクンドゥーズ州(Kunduz)とタハール州(Takhor)において、国境沿いの農村地域の生活環境を改善し、強靭性を高め、安定と安全性を促進することです。タジキスタンとアフガニスタンの政府、地方自治体、地域コミュニティ、市民社会組織と密接に連携し、開発課題により良い解決策を見出し、インフラ設備や公共サービスの改善を図り、ビジネスチャンスを創出し、国境を越えた協力関係の構築を目指しています。

7月末にタジキスタンの首都ドゥシャンベにあるUNDPタジキスタン事務所で、半年に1回実施されるプロジェクト運営委員会の第3回会合が開催されました。委員会にはアフガニスタン政府の農村復興・開発省副大臣、タジキスタン政府の経済開発・貿易省副大臣、プロジェクト対象地域のハトロン州副知事、そして駐タジキスタン日本国全権特命大使が出席し、2015年上半期の進捗と今後の見通しについての協議が行われました。プロジェクトはこれまでのところ概ね予定通りに進捗していて、2015年7月の時点で約4割のコミュニティインフラづくり(学校、保健、潅漑などのコミュニティにおける住民のための施設)が完了したと報告されています。私が2014年12月に出張で訪問したアフガ二スタンとの国境近くに位置するハトロン州シュラバッド市では国境を越えて利用される市場(タジキスタンにある、隣接するアフガニスタン領内の住民が頻繁に来訪して農産物の売買などを行える施設)は当時建設中でしたが、今年9月に完成しました(送電設備のみ12月に完了予定)。一方、アフガニスタン側の活動もこれまでのところ、大きな治安上の問題もなく順調に進んでいると聞いています。

運営委員会終了後には、前回同様にタジキスタン・ アフガニスタン両国のプロジェクト関係者によるタジキスタン側のプロジェクト視察が実施されました。関係者はプロジェクトによって完成した診療所、灌漑施設や太陽熱による温水供給施設を訪問しました。ジリクルという地域では、現地コミュニティの女性センターが管理する温水供給施設を設置したことで、日中の太陽熱を利用して温水を使用できるようになりました。これにより炊事・洗濯や入浴の際にも温水を使えるようになりました。冬のタジキスタンは寒さも厳しく、更に地方では電力供給が止まるという困難がつきまとう中、このような設備によって住民に冬場でも温かいお湯で体を洗えるようになり、衛生面においても大きな改善をもたらしています。

タジキスタン側プロジェクトの視察中、アフガニスタン側の参加者は地域住民と積極的な意見交換を行いました。視察に同行した高橋直子さんは「最も印象深かったのは、アフガニスタン政府関係者が『アフガニスタン国内では現在も治安が悪く、プロジェクト現場へのアクセスは困難が伴っている。そのためタジキスタンで地元住民の反応を聞けるのは自国のプロジェクト運営を見直すためにも有益だ』と話していたこと」と言っています。

インターン活動を通じて、プロジェクト現場に何度も訪れた高橋さんは、「タジキスタンとアフガニスタンの南部国境は川を挟んだ平地に位置しており、背伸びをすればアフガニスタンが見えるのではないかと思わせる広大な大地が地平線まで伸びています。このような同じ自然環境の中でも、治安状況の違いによって人々の日々の生活がいかに左右されるかを考えさせられます。治安向上と持続可能な開発という両輪をうまく回し、両国の発展に寄与するUNDPのクロスボーダーの取り組みはとても重要だということを、現場に行くことによって強く肌で感じました」と語っています。

LITACAに加えて、2015年3月3日、日本政府はJICAとUNDPの連携のもとで実施される「タジキスタンのアフガニスタンとの国境の効果的な管理を通じた国境を越える協力促進計画」(4.68億円)に署名しました。この新たなプロジェクトで目指すアフガニスタン・タジキスタン間の国境管理の改善は、治安面だけでなく、国境を越えた市場内に設置される税関機能の向上を通じて経済活動を促進させるという重要な一面も持っています。国境管理プロジェクトはLITACAへの相乗効果をもたらすことも期待されています。

10月24日、安倍晋三首相は、日本の首相として初めてタジキスタンを訪問しました。安倍首相は,首都ドゥシャンベ市内にあるタジキスタン国連事務所(UNDPも同事務所内に入る)において、平和への願いをこめて、内戦中の1998年に殉職された秋野豊国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官他国連職員顕彰プレートへ献花されています。エマムアリ・ラフモン大統領と署名した「日・タジキスタン共同声明」においてタジキスタン政府は、上述の国境管理計画の実施に対するUNDPを通じた日本の支援を高く評価し,今後の同様の案件への支援について期待を表明しました。UNDPは、タジキスタンの開発を後押しするため、日本と連携して地域の安定や人々の生活改善に取り組んでいきます。

タジキスタン

ソビエト連邦の崩壊に伴い、1991年に独立。1992年、政権側の旧共産党勢力とイスラム勢力を含む反政府勢力との対立から内戦が発生し、1997年6月に和平合意。1998年7月、秋野豊国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官を含む4人のUNMOT要員が殉職。人口840万人。旧ソ連諸国の中では最貧国。内戦が落ち着き経済は成長に転じたものの、依然として失業率も高く経済状態は厳しい。2008年10月の世界金融危機以降は、海外出稼ぎ労働者からの送金も減少し、国民総生産(GDP)の成長は鈍化したが、近年は7%前後のGDP成長率を維持。公用語はタジク語(イランのペルシア語やアフガニスタンのダリー語に近い言語)。ロシア語も首都ドゥシャンベを中心に広く使われている。UNDPは日本政府(外務省、JICA)と連携し、アフガニスタン国境地域の生活改善や国境管理に取り組んでいる。

 

国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ニュースレターより転載

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