ヨーロッパ・中央アジア

WHO日本人職員に聞く、ヨーロッパへ移動する国外避難民と結核対策の今

Photograph: EU/ECHO/Peter Biro
Photograph: EU/ECHO/Peter Biro

急増する移民、受入国の行政サービスは追い付かず

中東から多くの国外避難民がヨーロッパを目指している。2011年1月に始まったシリア騒乱。シリア国内は内戦が激化し、いまだ収束の目途が立っていない。国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)によれば、直近のシリアの貧困率は83.4%と見込まれ、2010年の28%から急速に悪化した。シリア国内の惨状が垣間見れる数字だ。

こうした状況から逃れるべく、多くの人々がシリアやその隣国を脱出してヨーロッパを目指している。ドイツが受け入れを表明して以来、想定をはるかに超える移民がヨーロッパ諸国へ雪崩れ込んだ。当然、受入国の行政サービスは飽和状態に陥り、行き場のない人々が普通の町にあふれかえっている。

カマル・マルホトラ国連常駐調整官兼UNDPトルコ事務所代表は、シリア難民の多くがトルコ国内の普通の町で生活していると指摘する。トルコ国内に流入した275万人のシリア難民のうち、難民キャンプで暮らすのはたった10%。他の人々はトルコ人と同じようにトルコの町に暮らしている。

こうした人々は、移住先の国で就労許可を得ることが難しく、社会サービスも満足に受けることができない。一時的な対応としてトルコは、支援を必要とするシリア人に対して保健・教育サービスを無償で提供した。しかし、こうした対応は小規模かつ短期的なものに過ぎず、移民の生活環境は厳しさを増すばかりだ。

 

ヨーロッパ国境を越えるもう一つの脅威

ヨーロッパ諸国が急増する移民への対応に頭を抱える中、新たな問題も噂されている。結核だ。ヨーロッパでは、結核は「過去の病気」だった。しかし、中東から流入する移民の間で結核が蔓延しているという噂がある。「過去の病気」だったはずの結核が移民とともに国境を越え、ヨーロッパの国内問題として再び表舞台に登場しようとしている。

今年3月、国際移住機関(IOM)は、欧州へ向かう難民・移民が結核の感染リスクに直面していることを発表した。不十分な保健サービスへのアクセス、越境による過酷な生活環境が原因として挙げられた。

結核の蔓延状況と、ヨーロッパ諸国の感染症対策はどうなっているのか。世界保健機関(WHO)で結核対策を専門とする濱田洋平さん(グローバル結核プログラム・アナリスト)に話を聞いた。

 

感染症に国境なし、根本的な対策を

Yohei Hamada, Interview

ーー結核の蔓延状況はどれくらい深刻なのでしょうか?

濱田 現在、イギリス、スイスなどの結核対策が進んだ国では結核患者の約70%を移民が占めています。これは結核発生率が高い母国で結核に感染した人々が、数ヶ月から数年、ときにはそれ以上経ってから移住先で発症するためです。一方で、一口に移民といってもすべてが結核の高蔓延国から来ているわけではなく、例えばシリアなどでの結核の発生率はEU諸国と比べてもそこまで高くはありません。また、結核自体の感染力も高くなく、一般的に移民から地元民への感染リスクは少ないとされています。したがって、結核のリスクを理由とした入国制限などの過度な対応は不要であり、科学的根拠と人権に基づいた適切な対応が求められます。

ーーどのような対策が必要でしょうか?

Hamada, WHO濱田 結核の伝播を防ぐためには早期診断、治療が極めて重要です。そのためには、難民、移民に対しても自国民と同じように結核診断・治療を含めた必要な医療サービスへのアクセスを容易にする必要があります。また、受診をしやすいような社会的環境の整備も重要で、結核と診断された移民を国外に退去させるような政策は、病院受診をためらわせ、結果として診断の遅れに繋がる可能性があります。特に、治療半ばでの国外退去は不完全な治療、耐性結核の出現に至るリスクがあり、避けなければなりません。

ーー受入国での対策以外に、国際社会ができることはありますか?

濱田 根本的な対策として、途上国での結核対策を一層進めていく事も不可欠です。結核をはじめ感染症に国境はありません。国際社会の共通の問題として、継続して対策を支援していく事が重要です。先進国での結核の制圧は、途上国での結核対策の進展なしにはありえません。

 

今回お話をうかがった専門家

濱田 洋平(はまだ ようへい)

世界保健機関(WHO)グローバル結核プログラム・アナリスト。長崎大学医学部卒業後、国立国際医療研究センターで勤務。ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院修士号取得。

 

この記事はジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と共同執筆しています。
掲載されている見解は全て著者のものであり、特定の団体による見解を示すものではありません。

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