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農業-途上国の多くの人びとのなりわい

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前回は食料は財であり、貿易は食料安全保障を達成する上で重要なツールだということを見てきた。今回は農業について考えてみたい。農業も食料安全保障達成のための直接的なツールだが、農業から見た場合貿易はどのような影響をもたらすのだろうか。

農業は、経済活動だ。途上国の農村部人口の約8割の人びとにとって、農業は主要な収入源である、生活を支えているなりわいだ。これが国の経済が成長するにつれ、農業分野の生産高のGDPに占める割合は縮小していくことが経験則としてわかっている。この現象は家計レベルでも同様で、東南アジアを対象とした調査によると、農家の所得が向上していく時、その主な収入源は農業以外からの収入(農外所得)によるもので、結果として所得における農業収入は減少していく。

それでもこのことは農業分野の成長は他分野よりも貧困削減効果が高いと言われていることとは矛盾しない。労働供給側から見た場合、経済成長中の国でより良い就業機会を得られるかは、人的資本、つまり教育にかかっている。貧困層の主収入源である農業は、農家が(特に次世代の)人的資本(教育)に投資するための資本蓄積の役割を果たすことで、長期的に貧しい農家が生活を豊かにしていくための基盤を強化する役割を果たす。

Photograph: Peter Casier
Photograph: Peter Casier

しかしながら、国際的に見た場合に貧しい国ほど農家の生産性は一般的に低い。もし資本も資源も豊かな先進国の農家との競争にさらされた時、更にその競争が不公正であった場合であればなおさら、国際貿易は途上国の農家の生活を苦しくすることになるだろう。

また、経済成長に伴って産業間の労働力移動が起こるが、そのような構造の変化は通常長い時間がかかるものであり、途上国において現在の多くの貧困層が農業を生活の糧とする状況はすぐには変わらないだろう。そう考えると、より開かれた食料貿易が途上国の農業の発展を阻害するのであれば、貧困層の基盤である農業分野を貧困削減の名目で保護するというのは、真っ当な考えだと思える。

次回は視点を変えて、倫理的観点からこの食料・農業問題を改めて考えてみたい。