国際

人間開発志向の前向きな移民政策を

Human Security, UNDP人々は、より高い所得や教育を求めて、あるいは戦争や暴力、自然災害、貧困から逃れるために移動します。人類史上、人間は常に移動を続けており、近年の国際化は人の動きをさらに速く、大量に推し進めました。現在、世界の人口の3.3%が出身国以外で生活をしており、その数は増え続けています。このような人の移動を止めることは不可能ですが、各種機関や法整備、規定などの効果的な制度を導入して人々の動きを安全なものにすることは可能で、それは結果的に持続可能な開発にも貢献します。

同時に、誤った強迫観念を持たず、現実的に対処することが必要です。EUなどの比較的複合的な経済圏では自由に人は動けても、現在のような経済的・政治的状況下で門戸開放政策を実施する国はまずないでしょう。だからといって、有刺鉄線と監視台で国境を閉ざすのは間違っています。

 

移民政策は開発政策

移民政策は、しばしば安全保障や労働問題、国境管理の問題として捉えられがちでした。しかし、移民政策は、それほど単純な問題ではなく、開発の観点から捉える必要があります。実効性のある移民政策がなければ、生産性を高めたり革新的な技術開発を進めたいと考える国やコミュニティが必要とする人材や労働力を得ることはできません。また、適切な移民政策がなければ、移民の人権を効果的に守ることはできず、彼らが受け入れ国の経済、社会、文化的な開発活動に十分貢献することはできません。高齢化が進む社会では、移民労働者なしでは健全な生活を維持することはできない。移民政策なしでは、移民やその家族はあっせん業者や人身売買業者に支払い続けなければならず、彼ら自身の未来や出身国のために投資することはできないのです。つまり、包括的な人間開発を中心に据えた移民政策がなければ、得をする人は誰もいないのです。

対照的に、きちんと管理された移民政策があれば、紛争を回避し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献するのです。したがって、SDGsは、包摂的な成長と持続可能な開発をもたらす移民の貢献を肯定的に評価しています。

適切な移民政策は開発途上国、先進国の区別なく必要とされています。移民は国際的な現象であり、世界で2億4400万人の移民がおり、そのうち1億人が開発途上国で暮らしています。南南移民(開発途上国から開発途上国へ)の方が、いまや貧困国から豊かな国への移民よりも多くなっているのです。

移民はほとんどの国にとって貴重な存在ですが、彼らは消耗品ではありません。彼らが開発に貢献し彼ら自身も成長するには、権利と機会がきちんと与えられなければなりません。

 

共有すべき責任と機会

移民は国境を超えるため、移民政策は国際的な枠組みで策定されなければなりません。肯定的な開発成果を期待するのであれば、移住に関する2国間および地域間協定、ひいては世界規模の協定が必要となるでしょう。国際的な移民政策に関しては、移民に関する責任は出身国、通過国、定住国すべての国で共有すべきなのです。移民はまた、共通の機会ももたらします。移民の財政的、社会的、人的コストが下がり、多様な人材や労働力を獲得しやすくなれば、誰もがその恩恵を享受するでしょう。移民がもたらす地域的、国際的な繁栄と平和への貢献を適切に評価するべきなのです。

 

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マグディ・マルティネス・ソリマンUNDP政策・プログラム支援局長

 

国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ウェブサイトより転載

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