インドネシア

被災するインドネシア、地震と失業と雇用保険

Photograph: EUECHO

インドネシアで地震による被害が拡大している。この国で社会保障整備を仕事としている身としては、どこかのタイミングで災害と社会保障についてプレゼンせねばと思っている。

まず、今回の震災で多くの方が死亡している。インドネシアの社会保険に加入している労働者は死亡保障給付は制度化されているが、大多数の非正規雇用者は加入できていない。また、そもそも、死亡保障給付は労働災害補償として運用されていることから、労働関連での死亡に限られる。労働中の被災による死亡が給付要件を満たすかは不透明で、おそらくほとんどのケースは給付要件を満たさないと判断されるだろう。

震災が多い日本には、震災失業という言葉がある。震災に伴う失業のことで、インドネシアのように日本と同等に災害が頻発する地域への教訓は多い。震災が起きた際、休業を余儀なくされる会社が増え、労働者は必然的に大量失業となってしまう。これが震災失業であり、雇用保険の役割は極めて大きい。

雇用保険のある日本では、震災の際に特例措置を適用した。実際に離職していなくとも失業給付が受け取れる仕組みであり、被災者の一時的な損失を緩和する役割を担う。被災の規模や復興ペースを見極め、政府は失業給付の給付期間の延長を行うこともある。これは雇用保険制度が整備されているからこそ、迅速かつ柔軟に対応できるもの。

インドネシアには雇用保険制度はない。あるのは企業の退職金制度で、法律で義務化されている。これは社会保障制度ではなく、企業責任の範囲である。地域経済が同時に破綻するようなケース(災害・恐慌等)では、企業が社員の所得補償を担うことは難しい。企業責任の限界である。

現在、インドネシアでは雇用保険制度の導入が議論されている。制度設計やコンセプトを議論している段階だが、ILOは助言する機会を得ている。今回の震災も一つの題材として議論に取り上げてもよいかもしれない。

THE POVERTIST 2018年10月1日号

不平等と政治 2018年10月1日号 世界中が政治の年を迎えている。独裁体制が広がる東南アジア諸国。政治と経済がぶつかり合うアフリカ。私たちが携わる開発課題の多くは合理性だけでは動かない。政治的な駆け引きを経て妥協点が結果となって世に送り出される。国際開発の主役を民間企業が担う場面も多くなった。企業利益とモラルの戦いも熾烈を極めている。 THE …


THE POVERTIST 2018年9月1日号

新興国の挑戦 2018年9月1日号 好況が続く世界経済は、中所得国を高所得国へ押し上げただけではなく、多くの低所得国を中所得国へ「卒業」させた。「中所得国の罠」で語られるように、中所得国は特有の新しい挑戦に立ち向かわなければならない。

実務家の連載を募集します

THE POVERTIST編集部では、開発途上国の課題や政策に携わる実務家の連載を計画しています。業務を通じて携わる地域や開発課題について発信しませんか。

大学院生の連載を募集します

THE POVERTIST編集部では、開発途上国の課題や政策を学ぶ大学院生の連載を計画しています。大学院のコースワークの中で得られた知識やオピニオンをタイムリーに発信しませんか。

Comments are closed.