マダガスカル

あるべき国際援助の姿とは?マダガスカル、トアマシナ港の開発を例に

Photograph: Yoko Inagaki

2017年3月に約450億円のトアマシナ港開発のための円借間契約が日本とマダガスカル政府間で結ばれた[1]。これは日マ間国際協力の歴史の中で最大の金額のもので、工事期間は10年に及ぶ。年利も0.01%とほぼゼロに近い。

政府開発援助(ODA)とは、「1国の政府から他の政府やその他NGO等に対してその国の人々のよりよい生活環境のために行う公的資産の自発的な流れ」を指す[2]。しかし、その国際援助はドナー国と被支援国の間の「アシンメトリーな力関係の再生産」になってはいないだろうか?

例えば、日本の支援によるトアマシナ港開発で、マダガスカルにもたらされる恩恵は大きいだろう。国際貨物のうちの90%がトアマシナ港を通って輸入されるため、物資の不足しているマダガスカルにとってその拡張は人々の食糧安全保障等を高めることになるし、バニラや胡椒等、その他農作物の大規模な輸出もしやすくなる[3]。しかし、国のODAで支援をするということは、そこに必ず日本の国益があるのである。

トアマシナ港拡張によってもたらされる日本への利益の1つは、ニッケル・コバルト開発プロジェクト「アンバトビー」がより多くのニッケルをマダガスカル国外に輸出できるようになることである[4]。これは日本と韓国、カナダの合同プロジェクトで、日本からは住友商事が参画している。

2つ目の利益は、中国のアフリカ進出に対抗して、日本のマダガスカルでのプレゼンスを示すことができる点である。これは実際に筆者が在マダガスカル日本大使と話をした際に言われたことで、マダガスカルの豊かさが隣国に搾取されることを恐れている日本の姿勢がうかがえる。トアマシナ港工事は2つの日本の民間企業が請け負っており、実際に私の暮らすトアマシナ市内の日本人人口は2017年から2018年現在(7月)までに約3倍に増加した。

しかし、ドナー国の不安を理由に行われる国際支援は、中立的でなく、目的意識がないことが多い。結局そういった支援はドナー国の被支援国に対する優位性を再生産して終わる[5]。今までにない大規模な工事うえに、マダガスカル国内で日本の支援を歓迎する声が多い。しかし、国際援助という看板に隠される負の側面を見逃してはならないし、国際援助は本来、相手国の発展に純粋に寄与するべきではないだろうか。


[1] 国際協力機構. 2018. マダガスカル向け円借款「トアマシナ港拡張事業」:マダガスカル待望の起工式を開催.
[2] Nair. 2013. Governance, Representation and International Aid.
[3] 外務省. 2017. ODA(政府開発援助)政策評価法に基づく事前評価書マダガスカル「トアマシナ港拡張計画」.
[4] Reuters. 2018. アンバトビープロジェクト、3年内の黒字化期待=兵頭・住友商社長.
[5] Nair. 2013. Governance, Representation and International Aid.

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