シリア

統合は万能薬か?難民出身教師が抱える困難

トルコのオンラインメディア「Ahval」によると、トルコに滞在している350万人のシリア難民の70%が今後もトルコに滞在する見込みだという。同記事は、米国に本拠を置くシンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」の報告書を紹介し、トルコに対し、シリア難民をトルコ社会に統合するためのさらなる努力を求めている。

同様の言説は、難民の子どもたちの教育についても主張されており、多くの国際機関やNGOは、難民受入国が難民の子どもたちを自国の教育システムに統合することを奨励している。例えば、UNICEFは、シリア難民の子どもたちのトルコの教育システムへの統合を支援するため、2016年から2018年にかけて13,200人のシリア人教師に金銭的サポートを提供した。トルコ政府はシリアの子どもたちが無料でトルコの公立学校に入学することを許可するとともに、シリア人教師がアラビア語版カリキュラムを使って難民の子ども達に教える「臨時教育センター」を運営しており、UNICEFはそこで働くシリア人教師たちに金銭面のサポートを行った形だ。

しかし、このニュースを両手を上げて喜べない人たちがいる。当のシリア人教師達だ。シリア人ジャーナリストのHosam al-Jablawiは、すでに少なすぎる給料で困窮しているシリア人教師が、統合が完了した後の彼らの将来についても、不安を感じていると報告している。同氏によると、シリア人教師には同じ学校に勤めるトルコ人教師よりもはるかに少ない給料しか支払われておらず、彼らの賃金はトルコに住むには不十分なものだという。こうした状況にもかかわらず、シリア人教師はトルコで働く法的選択肢が他にほとんどないため、臨時教育センターで働き続けるしかない。さらに、これらの臨時教育センターも統合プロセスを加速するために今後閉鎖が予定されている。また同氏は、トルコ政府が今後は、少数のシリアの教師に限り「請負教師」として少額の支払いで雇うことを計画している、という非公式情報も紹介している。「トルコの対シリア人政策には失望している」と語るシリアの元教師もいた。

どうすればこの状況に対処できるのか。多くの団体がすでに述べているように、資金調達は不可欠だ。セーブ・ザ・チルドレンは、「世界の人道援助のうち、たった3%未満しか教育に向けられていないが、その援助の大部分も、短期的で変動が激しく予測不可能なものである」と報告した。また、セーブ・ザ・チルドレンは、教育分野の資金不足は、難民を国内に統合するプロセスにおいて、難民・ホストコミュニティ、両者に緊張をもたらす可能性があるとも警告している。上述のシリア人教師の不満を鑑みれば、この指摘はもっともだ。

ただ、資金調達は問題の一部にすぎない。前述のように、シリア人教師の賃金上昇は必要なものではあるが、彼らの直面する状況は、資金があれば全て解決するものではない。彼らが直面する状況を紐解くと、「臨時教育センター」を残すべきなのか、残さないべきなのか、残さない場合、教授言語の異なるシリア人教師をどのように公立学校の枠組みの中で雇用するべきなのか、雇用はせずに他の雇用口を作るべきなのか、シリア人の子ども達はトルコの国民教育システムの中でどのように教育されるのがよいのか、トルコに残ることを想定し、トルコ人の子ども達と同じ教育を行った方がよいのか、シリアに帰ることを想定し、シリアのカリキュラムに近い教育を行った方がよいのか、また、教育を受けた子ども達のトルコでの雇用問題にどう対処するのか、など、学校現場レベルからトルコの国家政策レベルまで、様々な問いが複雑に絡み合っているからだ。

トルコにおけるシリア人教師を取り巻く状況は非常に複雑だが、ひとつ言えるとすれば、シンプルに「統合」を促進するだけでは難民とホストコミュニティの間で、様々な緊張が高まる危険性があるということだ。

現在、難民の子どもたちの教育については少しずつ取り上げられることが多くなっているものの、難民教師が直面している課題については、言及されることが少ない。難民、ホストコミュニティ、そして政府や援助機関を含むさまざまな利害関係者の間での議論を活発化することが、この課題に取り組む第一歩だろう。

この記事はLearning for Tomorrow: Education in Emergenciesに掲載されたものを翻訳・加筆したものです。

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