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UNDPの組織改革に見る開発援助潮流

photo credit: United Nations Photo
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本部を小さく地域局を大きく

前回は開発援助の潮流を国連機関への拠出金を通じて考えてみました。では、具体的には拠出金の変動がどのように国連機関へ影響を与えているのでしょうか。

国連開発計画(UNDP)は数ある国連機関の中でも名実ともに中心的な存在です。コア予算の削減傾向はUNDPに関しても例外ではなく、組織改革を迫ることとなりました。

2014年に実施された改革では大規模な配置転換によって、結果的に大幅な人員削減が行われました。元々、UNDPは7,500名の職員を抱え、6割がニューヨーク本部、4割が地域局に配置されていました。今回の改革ではこの割合が6:4から4:6へ変更されました。

 

国連職員の給与体系と懐事情は?

Moneyこの変更の意味を理解するためには、国連の給与体系を理解する必要があります。

国連職員の給与は、大雑把に言うと基本給+地域調整給から成り立っています。基本給が全世界同じ基準(職位によって変動)で運用されるのに対し、地域調整給は主に勤務地の物価によって変動する手当のことです。

ニューヨークは物価が非常に高いため、地域調整給も高額となります。つまり、ニューヨーク本部勤務の職員数を減らし、開発途上国へ多くの人員を配置することで地域調整給の予算を削減することができます。これが今回の配置転換の裏にあるカラクリのようです。

 

怪我の功名なるか、人件費を切り詰めて現場主義へ?

UNDPには5つの地域局(所在地はアンマン、イスタンブール、バンコク、パナマ、アジスアベバ)があり、中東、欧州、アジア、中南米、アフリカを管轄しています。地域局の下には各国の事務所があり、地域局と一丸となって支援を展開する体制です。

今回の組織改革では、現場により近い地域局の人員強化が行われた形となりました。「予算の制約から改革やむなし」という側面はあったものの、現場主義に大きく一歩前進したことは支援展開にとってプラスに働く要素かもしれません。

 

突然の改革に戸惑うスタッフも?

Photograph: Ippei Tsuruga
Photograph: Ippei Tsuruga

最後に、UNDPで勤務してきた職員の立場に立って少し考えてみたいと思います。

ニューヨーク本部勤務者の中には、ニューヨークで自宅を購入し、子育て、人生設計をしている人も少なくありません。人事異動で開発途上国へ引っ越さねばならない状況は、当然、人生設計を大きく変更せざるを得ない状況を生みます。

日本国内の人事異動ならまだしも、生活環境・衛生状況の良くない開発途上国への人事異動となれば全く別次元の人生設計の変更となります。子供の教育についても、ニューヨークで進学を検討していたのに、教育水準の低い開発途上国での教育を検討しなければならないとなれば、子供の将来へも暗雲が立ち込めるかもしれません。

また、ニューヨーク近郊の住居費や生活費は日本人の想像を絶するほど高く(アパート一室の家賃20~30万円/月程度はザラ)、ローンで住居を購入している職員にとっては地域調整給の低い開発途上国への転勤はローンを支払えない状況に陥るリスクをはらんでいます。

「ハイエンドの暮らしを謳歌していたのだから文句を言うな」という声もありそうですが、組織の事情で人生計画を大きく変更しなければならない状況は万人共通の悩みかもしれません。現実的な問題として、家庭の事情でニューヨークに残らなければならない職員は、今回の組織改革で退職せざるを得ない状況となったことでしょう。

このように、先進国経済の停滞が国連機関への拠出金を減らし、国連機関は予算の制約から人員配置転換を行わざるを得なくなり、職員の人生設計までも影響をあたえる。そういった状況が世界の援助潮流の荒波の中、目まぐるしく動いていると感じます。

 

※この記事は1月15日に開催された開発フォーラム二瓶直樹氏による発表を参考に、執筆者の見解を加えて再構成しています。内容の責任は執筆者にあります。

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