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Re: 貧困削減の観点から農業を保護すべきか?

Re: “農業-途上国の多くの人びとのなりわい“(2016年1月29日付)に対するコメントへの回答

コメントありがとうございます。比較優位、幼稚産業育成いずれもご指摘の点仰る通りだと思います。ミクロ経済学の観点からのコメント大変参考になりました。比較優位論と幼稚産業育成論について私なりにも考えてみました。

一般論として考えてみた時に、比較優位論については、貿易を行う両者の余剰最大化という意味では間違いないと思いますが、動的に見て一方が他方より技術革新等により付加価値の増加がしやすい財を生産している場合、総余剰は最大化されるものの分配で見ると取り分の差は広がっていくことが指摘できるかと思います。

また幼稚産業育成論については、産業革命後に工業化を進めてきた国は中国、インドに至るまで保護貿易からの段階的な自由化を経ており、国内産業は競争力をつけるまでの期間関税または補助金助成によって保護されています。関税も補助金(輸出補助金含み)も、自国の持つ比較優位性に変化をもたらそうとして政府が介入するという意味では同様で、これは貿易を行うにしてもそこから得られる配分の変化を求める努力と考えられるかと思います。

そこで農業について考えてみると、途上国が比較優位を持つのは作物によって異なるかと思います。本文にも書きましたがコムギ等食糧については先進国が主要な輸出国途上国です。これは食糧生産が土地集約的に行われていることと、ご指摘のディストーション要因である先進国の多額の補助金が農業を支援していることが理由として考えられるかと思います。

コモディティについては、途上国によってはこれに優位性があり実際に主要な輸出産品である国もありますが、開発の観点からの課題としては、輸出産業が大企業により寡占的で中小企業の参入が難しいことと、フェアトレードの議論でしばしば指摘されるようにバリューチェーン内での生産者への配分が小さいため貧困削減としての効果は限定的であることだと考えています。

補助金については、ご指摘の通り途上国が補助金で農業を保護するというのは財政的に困難だと思います。一方で、農家への補助金が先進国で手厚く拠出されている意味を考えてみると、農業の保護は幼稚産業育成論の文脈(競争力を持つまでの限定的な保護)とは異なる観点で捉える方が正確なのではないでしょうか。それは環境保全かもしれませんし、外交的優位性保持かもしれませんし、途上国のように現実に農業で食べている人口を多く抱える国にとっては社会資本への支出と考えてもいいように思います。いずれにしても、私は一般論としては農業が経済発展を牽引する産業となる可能性は高くないと考えています。

では何が途上国の経済発展を牽引するのか、ということになると、答えはないのですが、それは国と時代によって異なるのだろうと思います。工業かもしれないですしサービス業かもしれないですが、もしそこで食品加工業だ、ということであれば(そこで一次産品だという答えを出せる国は本当に限定的だと思います)、一定期間粗悪品に耐えるという国民の合意の下、保護による育成政策を取るということはあり得るのではないでしょうか。ただ、80年代までの権威主義体制による開発独裁の世界と比べ、今政府が現実にできる産業保護の選択肢はかなり制限されています。

また、もし保護政策が取れるとしても、東アジアのような輸出促進政策が今の時代でも通用するのか、ラテンアメリカ諸国が80年代輸入代替政策でうまくいかなかった要因とその対策は何なのか、検証する必要があるでしょうね。答えは持ち合わせていないのですが。

ナイジェリアでは高品質のコメ生産を促進するための保護政策を取っていると聞いたことがあります。このあたり、ナイジェリアに詳しい方がいれば詳細聞いてみたいところです。

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