キルギス

キルギスの選挙支援

Kyrgyzstan Election

国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局ジャパンユニットの二瓶直樹です。11月1日から3日に、キルギス共和国(以下、キルギス)の首都ビシュケクに出張し、日本とUNDPが2015年から2017年にかけて実施するキルギス選挙支援プロジェクトの成果を視察して参りました。今年10月4日には、同プロジェクトの支援のもと、キルギス議会選挙が指紋認証による有権者確認、選挙管理の電子化など同国にとって「大きな挑戦」を成功裏に終了し、現地の方からも感謝の声が寄せられました。今回はその「開発現場」から報告いたします。

10月下旬、安倍晋三首相による中央アジア5か国を訪問し、マスコミ報道などでキルギスという国名を初めて耳にされた方も多かったのではないでしょうか。キルギスは、旧ソ連崩壊に伴い1991年に独立した中央アジアの国で、人口約560万人で、1人あたりGDPは1,000ドル強で、低開発の状態が依然と続き、多くの開発課題を抱える国です。中央アジアの中ではタジキスタンに次ぐ低開発国となっています。2005年と2010年に2度の市民革命を経験したキルギスは、他の中央アジア4か国と比較して、比較的民主化への道のりが進んでいると言えます。しかし、進んでいるとはいえ、国の統治能力が弱く脆弱な国で、統治機能を強化する民主化支援は、経済インフラ等の支援と共に最重要課題となっています。

私が昨年12月、キルギス共和国へ出張した当時、キルギス政府から日本政府へ選挙支援の要請が正に出された頃でした。キルギス政府は、2015年10月の議会選挙に向けて、選挙を成功させるために国際社会に支援を呼びかけていました。先に述べたとおり、キルギスは、2005年と2010年の選挙後に、大統領失脚の契機となる市民革命が起きる苦い経験があるため、2015年の選挙は平和に実施されることが大きな課題でした。そのため、選挙支援プロジェクトについてUNDPキルギス事務所、在キルギスの日本大使館、国際協力機構(JICA)事務所、キルギス中央選挙委員会と面談し、プロジェクトの重要性、日本が提供できる支援等の検討をしました。

キルギスは1991年の独立以来、アカエフ政権の下、民主化・市場経済化を推し進めたものの、国民が経済改革の成果を享受できずにいました。そんな中、2005年2-3月の議会選挙での不正をきっかけに野党勢力が南部で開始した反政府運動で政権が崩壊した経験を有します(「チューリップ革命」)。2010年には、再度国民による大規模な反政府デモが発生し、バキエフ政権が崩壊しました。同年には、中央アジア初となる議会制民主主義が導入され、2010年の選挙では連立政権が成立しました。このような過去の経験からアルマズベク・アタムバエフ大統領は、2015年のキルギス議会選挙では、過去の経験からも、公正かつ透明性の高い選挙実施の重要性を認識し、キルギス政府は電子認証システムを活用した効率性や効果の高い選挙実施体制を構築できるよう国際社会の協力を求めていました。

その後、日本政府・JICAとUNDP間で協議を重ねた結果、2015年5月20日UNDPと日本は「2015年から2017年までの選挙における投票者本人確認手続自動化計画プロジェクト(7.4億円)」の交換公文を署名しました。同プロジェクトでは、2015年から2017年にかけて実施されるキルギスの議会選挙や大統領選挙における投票者の本人確認のための機材の提供及びその機材の利用に係る能力強化を目的としています。具体的には、UNDPは日本政府からJICA経由で資金拠出を受け、中央選挙管理委員会および国家登録局に対して、機材導入や職員約300 人に研修をしました。透明で公正な選挙の実施を支援するためです。

機材導入に関しては、ノート型パソコン3,000台、指紋読取装置3,000台、感熱式プリンター4,000台、非常用発電機3,000台等の大規模な調達を支援しました。2015年10月4日の議会選挙では、中央アジア地域初となる電子式投票者本人確認システムが活用されました。このシステムにより、国家の有権者登録サービス機関が収集した生体データを用いて、投票所に到着した投票者の認証をすると共に、投票所の職員や政党の代理人、選挙監視員向けに投票者の氏名と写真を表示し、投票者が本人に間違いないことを確認し、不正のない選挙の実現を目指しました。

調達機材の納期が、事前の試験運用なども考慮して政府からは8月上旬と設定されました。それに対して、日本からの資金拠出が5月20日以降であったため、機材調達に当てられる期間は3か月もありませんでした。UNDPは過去の選挙支援や調達手続きの経験をフル稼働し、キルギス政府から日本に対して要請された選挙のために必要な機材を期日までにすべて納品できました。さらに、8月の最終段階で、キルギス政府よりパソコン機材3,000台の追加納入を要請されました。キルギス政府が76万ドルをUNDPに拠出し、追加調達が行われました。投票日11日前となるぎりぎりのタイミングで追加機材の納入もUNDPキルギス事務所をはじめとする関係者の尽力で無事完了しました。

日本政府は、キルギス議会選挙に有識者と大使館、JICA関係者の計7人を選挙監視として派遣、参画させました。日本がUNDP経由で支援した投票所2,400か所の機材と選挙委員会の支援は、選挙監視団も現地の投票所で効果を実感されたことと思われます。

キルギス政府国家登録局によると、投票所では計144の技術的問題はあったものの、深刻な問題は一つも報告されず、投票所の電子システムは無事稼動しました。過去2回の選挙と比べて、透明性が高く、公正な選挙が、平和裏に行われたことは、キルギスの民主化への道のりにおいて大きな意味をもちます。キルギスのBBCでは、日本が支援した投票所の機材が稼動している様子も放送されました。

安倍首相とアルマズベク・アタムバエフ大統領は10月26日、首都ビシュケクにて「日・キルギス共同声明」に署名しました。共同声明には、「キルギス側は、選挙に際して本人確認の手続自動化のための機材供与および日本からの選挙監視団の派遣に対して深甚なる謝意を表明した」とあります。キルギスのアレキサンダー・アヴァネソフ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表は、「日本の支援があったからこそ、10月4日の選挙は成功しました。民主化支援への貢献をキルギス政府関係者の多くが大変高く評価し、感謝しています」と述べています。

UNDPは、国連の中立的な立場、かつ迅速な支援体制で、世界中で様々な選挙を支援しています。日本は、毎年UNDPと連携し、数々の選挙支援をしています。2015年はキルギスの他にも、ハイチ、ミャンマー、ギニア、中央アフリカ共和国、2014年は、ザンビアやギニア・ビサウの選挙を支援しました。日本とUNDPの連携で、世界中の民主化プロセス、国家統治機能が改善されています。日本の支援が〝目に見える〟形で役立ち、その選挙が国の平和や安定につながっているということを、ぜひ日本のみなさんにも知っていただきたいと強く思います。

 

キルギス共和国

ソビエト連邦の崩壊に伴い、1991年に独立。人口約560万人。アジアと欧州、ロシアと中東を結ぶ重要な地域に位置するものの、エネルギー資源に乏しく、水資源は豊富だが産業に恵まれておらず、独立国家共同体(CIS)諸国の中でタジキスタンに次ぐ最貧国。2005年のチューリップ革命(アカエフ政権の追放)、2010年の市民革命でバキエフ政権の追放を経験。2010年6年、南部にてキルギス系とウズベク系住民の大規模衝突が発生し、不安定要因を抱える。自然が豊かで中央アジアのスイスと呼ばれており、観光業でポテンシャルを有する。国語はキルギス語で、ロシア語は公用語。UNDPは日本政府(外務省、JICA)と連携し、主に防災及び選挙支援分野でプロジェクトを実施。

 

国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ウェブサイトより転載

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