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新・最底辺の10億人が示唆すること

photo credit: Asian Development Bank
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最底辺の10億人(The Bottom Billion)。文字通り、世界の最貧層の10億人のこと。オックスフォード大学のポール・コリア教授が2008年に世に送り出した名著のタイトルでもある。最も貧しい人々のために何をすべきか。コリアが長年の研究成果をもとに、援助関係者に考えるきっかけを与えてくれた書籍だ。

では、新・最底辺の10億人(The New Bottom Billion)はどうだろう。聞いたことがあるだろうか。国際的には有名な言葉だが、日本で議論しているのをあまり聞いたことがない。世界の貧困の現状を把握するために大切な議論なので、少しだけ紹介したいと思う。

「新・最底辺の10億人」は英国開発学研究所(IDS)のAndy Sumner研究員が2010年に発表した研究成果。

1990年、世界の貧困層の93%は低所得国に居住していたが、2007-08年には、貧困層の4分の3が中所得国に居住していると推定される。実に13億人が中所得国に、3.7億人が低所得国に居住しているということになる。

これは開発途上国の仕事に関わる者にとって重要な「変更」を示唆している。

振り返ってほしい。

支援先を決める際に何を基準としているだろうか。「貧しい国」へ支援することで、貧困削減に役立っていると考えてはいなかったか。「貧しい国」はどうやって選定しているか。世界銀行のデータベースから一人あたりGDPのランキングを参照して、「貧しい国」を決めていないか。

「新・最底辺の10億人」は、「低所得国を対象として支援することで、世界の貧困削減に寄与していると言える時代」の終わりを宣言している。低所得国には貧困層の一部しか居住していないのだから。

日本の支援は貧困削減に資することを大前提としている(そう思いたい)。

中所得国へ格上げされた国にも、多くの貧困層が暮らしている。所得の高い低いだけで、貧困削減案件と語る時代は終った。これからはむしろ、対象国の中で、貧困層をターゲットとする案件形成が求められる。そのためには、統計データから貧困層を選定する手法と実践が不可欠であり、そうした人材が必要となるだろう。

 

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