ベトナム

観光開発分野で国際協力に関わる理由

ベトナムの観光開発に関わっていると、「ベトナムのような中所得国に開発援助は必要なのか?」「ましてや、『観光』は平和産業であり、日本でも人材不足が叫ばれているのに、なぜ日本人が、ベトナムの観光開発、それも広報に関わるのか?」「英語が話せるのに、なぜ苦労して別の言語を学ぶのか」等という、直接聞かれないにしろ、そういう世間の雰囲気を感じるときがある。もしくは、単純に「観光業って、楽しそう!」だとも。

私は、「ベトナムは発展途上国だから、援助が必要であろう」という姿勢で物事に臨んだことは無い。当然、発展が必要な部分は多々ある。そして、この国の収入は信じられない程、低い。だがこの国は、とりわけ私が住むメコンデルタは、豊かな自然と豊富な野菜や果物、穀物などが収穫され、とてもリッチな食生活を送っている。正直、大気汚染はひどいし道路のインフラはまだ整っていない。だが子供たちの笑い声が響き渡る環境は躍動的で居心地が良い。スピード感が私と合っている。そして何より、観光業から見た東南アジアの市場は、非常に面白い。今まで、欧米諸国が握っていた旅行関連事業、とくにスマホアプリは、アジア発のスタートアップ事業が急増している。その為、「私自身が、その現場にいたかった」という意志が一番強い。

2018年、国連世界観光機関(UNWTO)が初めてスタートアップピッチコンテストを開催した。観光産業は日本を含め世界で超成長産業であり、とりわけ「持続可能な観光開発」に重点が置かれている。旅行関連のグローバル企業は、こぞって持続可能な観光に関連したスタートアップに出資を行い、事業展開のサポートが進んでいる。日本の観光庁も今年7月「観光×テクノロジー」で観光コンテストを企画し、上位入賞者はG20観光大臣会合の官民セッションで各国・国際機関の代表団を前にプレゼンテーションの機会が得られる。

先月、ベトナムの観光事業関連の人々にもベンチマークとして捉えられているベトナム中部の世界遺産「旧市街ホイアン」を訪れた。そこで、メコンデルタのハウザン省で開催されたアグリツーリズムセミナーに登壇していたホイアン(クアンナム省)市委員会の元秘書であるグェン・スー氏と会う機会を頂き、「農業と観光」の価値を語った。

ホイアンの街並み

「ホイアンは1994年に8部屋のバケーションレンタルのサービスを始めた。その部屋数が、今では18,000室にも及ぶ。2018年、約400万もの人々がホイアンを訪れ、そのうち70%は外国人だ」と教えて下さった。同時に、現在オーバーツーリズムによる被害も懸念されており、9月中旬にはホイアン市人民委員会とクアンナム省合同で、「ホイアン観光の質を高めるための解決案とは?(Giải pháp nào để nâng cao chất lượng du lịch Hội An?)」というタイトルのセミナーが開催される予定だ。

グェン・スー氏が会話の中で重点的に話していたのは次の3点だ。

1.地元の人々と行政・政府のコネクション
ホイアンは旧市街だけではなく、周りに農家、陶芸家、生産者がたくさんいて、その人々とのコネクションが何よりも大事だ。

2.自然の価値を生かすこと
川、ココナッツファーム、農業、ビーチ、水田、水牛、コウノトリなど。もともと釣りに使われていた円形のボートは、今は観光客を自然の中に連れて行くのに一役買っている。

3.アグリツーリズム開発は必ずコミュニティーツーリズムと結びついている
なぜなら、コミュニティが観光を作る為。コミュニティが無い場所は、住んでいる人々にとっても魅力の無い場所。観光客はコミュニティに惹かれ、コミュニティは環境保護にも役立つ。

「観光開発のゴールは、環境を共に守ることにあり、人と人の振る舞いや行動を変えることにあり、人々と自然との関わりを大事にすることである」

私はグェン・スー氏を尊敬しているし、とても心強いものを感じている。メコンデルタに戻り、一連の話をするも、「メコンデルタにはダナンのような海も無いし、テーマパークも無いし、あるのは平坦な土地と食だけ」と嘆く地元の人々。このギャップは、悔しくもありチャンスでもあった。カカオファーム、農業体験、美味しい多様な果物生産、地元の人々の売買の場である水上マーケット、そして、カントーには、日本人の私でも驚く質の高いコーヒーやシントーを提供し、コロニアルデザインの素敵なカフェが多く、「稼ぐ価値のある体験」が整っていた。

水上マーケットと村を探検するツアー
村に住む家族

もともとその土地や人々が持っている価値を発掘し、その価値を評価してくれる世界中の人々に情報を届けるという編集作業は、その価値をまず守る為に、とてつもなく重要だ。そして、メコンデルタに来る前から、約9年前に初めてベトナムに訪れた日から、なんとなくここにはその価値がたくさん眠っている気がしていた。そして、その価値に気づいたら、まずは自分が行動する。地図製作、本の翻訳、記事執筆、日本と世界の観光業情報を同僚や地元の人々に共有、地元の主要人物複数名とお会いし、カントーの観光開発について提案や資料の提出、オススメされた飲食店にすぐ行って課題点や写真を共有、同じ志を持った人々とのツアー企画やイベント主催等は、この3ヶ月で全て行ってきた。何よりこの場所の魅力を地元の人々に知ってほしい。

同時に、ベトナムではセミナーやイベントを頻繁に開催し、他エリアや他国の事例を学ぶことは好きだが、単に「教えて」という姿勢の人々が多く、局長クラスの人々に、自分達の住んでいる地域の魅力を発掘し、豊かな観光資源を長期的ビジョンをもって行動・実践していく人々がまだ少ないことに気づいた。私は、この点も、改善点でもありチャンスでもあると思う。なぜなら、成長意欲が高く、物事をスピーディーに進めながらも、勤勉で、日本人の「規律」や「長期的に物事に取り組む姿勢」を評価してくれているベトナム人と、日本人のチームはすごいものが生み出せるのではないかと、ふと考えるからだ。

「人々の人権保護」や「子供の命の救出」など、難民や医療関連の職種のような「大義名分」が立てにくい国際協力の中の観光職種。それは何より、国際協力の世界の動きと、観光業の世界の動きのスピードが全く異なり、前者は何年にも渡り、『先進国』と『発展途上国』や『社会的弱者』の枠組みで、同じような議論がなされているスピード感、かたや観光業は国々の枠組みを越えてネット上で発展していくスピード感だからだと思う。どちらが重要とか、大事というものではなく、今、全ての視点が必要とされている。

私は、こうした「思考の速さ」と「思考の深さ」を同時に持ちたいと思っているし、周りの人々と共に成長していきたい。そうして今、私は発展が著しい東南アジアの観光分野に関わっている。

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