インド

途上国におけるNGOの運営問題とは?

こんにちは。2018年から南インド、チェンナイのロヨラ大学院にて社会福祉を専攻している伊藤彩乃です。今回からは、大学院のプログラムの一貫として行われる週2回(水・木曜日)のフィールドワークでの経験についてお話します。

大学院1年次は、クラスの中で2人1組となってそれぞれNGOへ派遣されます。2年次になると、1人での派遣となり、興味に沿ったNGOを担当教員と相談して決めることが出来ます。規定では1日8時間はNGOの指導の下働くこととなっていますが、そんなことはほぼ守られておらず、大学院からの監視もないため、働く環境や内容は各NGOによって大分異なります。様々な活動に取り組んでいるアクティブなNGOに派遣されると、体力も精神力も削られる大変なフィールドワークとなりますが、あまり活動的ではないNGO(インドには様々なNGOが存在しますが、上手く稼働していないNGOも多いのが現実です)へ派遣されると、ひたすらオフィスで時間を潰す…そんなこともあるようです。私は運よく、1年次も2年次もとてもアクティブな組織に派遣されたので、毎週ヘトヘトになりながらもとても実践的な経験を積むことが出来ています。

大学1年次には、インド児童福祉会(Indian Council for Child Welfare)という子供の権利を守ることを目的とした非営利・非政府組織です。しかし、政府から多額の援助資金を受けていること、政府との共同プログラムが非常に多いことから、インド人からは「ほぼ政府機関」というように認識されています。前期は児童援助資金部門(the Department of Sponsorship)で、後期は児童無料電話サービス部門(the Department of Child Line)で働きました。

児童援助資金部門では主に、必要最低限の生活を送れない、または子どもを学校に行かせることのできない財政難の家庭を調査し、政府からの援助金を受け取ることが出来るように援助します。財政難である原因は様々ですが、主に両親の死、離婚、または親のどちらかが障害を抱えている、さらにはHIVのような長期的な治療を必要とする病気を患っていることが多いです。主な仕事は、援助が必要な家庭の調査、援助金の受け渡し、政府機関への援助を受けている家庭の経過報告などです。私はフィールドワーク中、幅広く様々な仕事に関わる機会がありましたが、一つ一つが本当に根気のいる、大変なものでした。

一番印象的で大変だったのが、「援助金の受け渡し」です。私が担当したのは、スタッフの調査により援助金が支給される事が確定している家庭に、支援金をオフィスに受け取りにくるように連絡する事でした。通常は電話で行わるこの業務ですが、資料に記載されている番号に電話しても出ない、たまに既に使用されていない番号だったりします。正しい電話番号を伝える、記入する、番号を変えたら報告する、というような日本で当たり前とされている事は、私たちがしっかりと教育されているからこそできるものだという事を、インドで常に実感しています。

電話での伝達が無理となると直接伝えに行く必要がありますが、ここでも電話番号と同じような問題が起こります。住所が正しく記入されていないのです。さらには資料が3年前、5年前のものという事も少なくなく、スタッフの資料整理・管理にも多くの課題が残っています。日本でいうと~町という所までは大体検討がつくので、とりあえずその地域に出向き、あとはクライエントの名前をもとに地元の人に聞き込みをしながら家を探しあてます。インドはコミュニティーの絆が強い、といっても、ピンポイントでクライエントを探すのにはかなりの労力と時間を費やします。炎天下の中、慣れない地域を練り歩くのはとても大変でした。ただ、地元の人に聞き込みをしてもどうしてもクライエントを探し出せない場合もあります。その場合は地域の学校を訪れます。そもそもこの援助金は、子供達を支援する、子供を学校に通わせるのが目的であるため、クライエントには必ず子供がいて学校に通っているはずです。子供の年齢を考慮して小学校または中学校へ出向きます。援助を受ける家庭なので、私立ではなく地域の公立学校です。学校で先生に子供の名前を確認して紹介してもらい、授業が終わった後に子供と一緒に家について行く、というのが一連の流れとなります。ある時は、子供が小学校5年生の歳だったので小学校に行きましたが、だれもその生徒を知らず途方に暮れていたら、その資料が3年前のものだと判明し、あわてて中学校に行き生徒を探した、という事もありました。

中でも、母親がHIVに感染し、父親とは死別、小学校に通う2人の子どもがいる家庭を担当した時は胸が割ける思いでした。一日かけてクライエントを探し出しました。母親は自身の健康管理で苦労しているのにも関わらず、子どもたちを育てるため朝から働き詰めでした。母親は小学校低学年までの教育しか受けておらず、読み書きも出来ないので、低賃金で働くことしかできません。後日オフィスに援助金を受け取りにきましたが、受理のサインも書けないため、スタッフが書いた彼女の名前を真似て書く、という状況でした。彼女自身教育を十分に受けられなかったからこそ、子供たちには教育を、という彼女の思いにはとても胸を打たれました。どんなに財政的に苦しくとも、母親がこのような考えをもっている子供たちは本当に恵まれていると思います。田舎の村や部族の村では、両親特に母親が教育の重要性を十分に理解していないがために、子供たちも学校にいかない、いけないというケースが本当に多いからです。この部族の話も今後していきたいと思います。

私が担当した案件は全てクライエントを探し出せましたが、クライエントを最後まで探し出せないケースもあります。援助金を用意できても、クライエントまで届けることができない、というのは組織の運営に問題がありますが、その組織、NGOの運営問題もまたインド、そして途上国の抱える問題の一つです。私が働いていたこのインド児童福祉会はかなりアクティブに稼働していており、他のNGOに比べると運営もしっかりされている方でした。それでもまだまだ改善が必要です。クラスメートが行っていたNGOのいくつかは、ほぼやる事がなくスタッフもオフィスではたのしく昼食をとって一日の業務終了、ということも少なくなかったそうです。インドの大学院に入学して半年で、インドのNGOの運営問題を体感しました。

クランドファンディングについて

以前の記事で募集していたクラウドファンディングは、2019年7月22日に成立しました。

食の支援を通してインドのHIV感染した女の子達を守りたい! – クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)

インドタミルナードゥ州チェンナイにあるARKで、HIV感染によって帰る場所がなくなった10人の女の子達に1年分の食事をサービスします – クラウドファンディング Readyfor

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