ベトナム

日本から世界各国へ、そしてネットワークへ、進化する一村一品運動

Photograph: Kuniharu Yamada

大分県発祥の「一村一品運動」は、今や世界各国で展開されている。JICA青年海外協力隊としてベトナムの農村開発支援NGO「VIRI」で活動中の山田邦永が、世界に広がる一村一品運動を紹介する。

大分県発祥、「一村一品運動」のコンセプト

一村一品運動は、1979年に大分県知事に就任した、故・平松守彦さんが提唱・主導してきた。大分県内各地で過疎化が進行する中、行政依存傾向を払拭し、地域住民の自主自立精神の下に地場産業を興すことを目指し、一村一品運動が展開されてきた。

一村一品運動には、3つの原則がある。

  1. 「ローカルにしてグローバル」:地域の文化と香りを持ちながら、全国、世界に通用する「モノ」をつくる。
  2. 「自主自立・創意工夫」:地域住民が商品を決め、創意工夫を重ね、磨きをかけていく。行政は、技術支援やマーケティングなど側面から支援する。
  3. 「人づくり」:先見性のある地域リーダーとともに、何事にもチャレンジする創造力に富んだ人材を育てる。

ベトナムにおける一村一品運動「OCOP」

OCOPがベトナム政府の重要施策に

大分県で始まった一村一品運動の英語名はOne Village One Product(OVOP)である。ベトナムにおいては、One Commune One Product(OCOP)の名称の下、日本のOVOP等の前例に倣いながら、2013年より東北部クアンニン省で始まった。その後、ベトナム全土にOCOPが展開され、2018年4月時点で全国63省市のうち60省市がOCOPに参加している。

そして2018年5月7日、2018~2020年のOCOPについて定めた首相決定490号(490/QD-TTg)が交付された。総事業費は約45兆ベトナムドン(約2,163億円)で、農業農村開発省が他の省とともに、ベトナムにおけるOCOPを強力に推進していくこととなった。

大分国際一村一品交流協会 内田正理事長のベトナム訪問

ベトナムにおけるOCOPの推進の裏には、大分県に本部を構える大分国際一村一品交流協会の強力なサポートがある。本協会の内田正理事長は、2018年5月、ベトナム西北部ホアビン省人民委員会副代表、同省カオフォン郡代表、カオフォン郡オレンジ生産協働組合代表らとも面会し、農村部の持続可能な発展のためにOCOPを推進し付加価値のある商品を開発することの重要性等を説明した。合わせて、カオフォン郡のオレンジ農家も視察した。

ホアビン省カオフォン郡オレンジ農園にて、生産協働組合代表トゥ・クアン・ハー氏(右から3人目)と握手をする内田正氏(右から4人目)

また内田理事長は、2018年7月、ベトナム東北部バクザン省で開催された、上記首相決定に伴う公式な全国キックオフミーティングに参加した。ブオン・ディン・フエ副首相やグエン・スアン・クオン農業農村開発相も参加されている場で、ベトナムにおけるOCOPの成功を祈念して、激励の言葉を贈った。最後に内田理事長の音頭に従って、ベトナム語で「Cố gắng! Cố gắng! Cố gắng!(頑張ろう!頑張ろう!頑張ろう!)」と参加者全員で唱和し、会場が一体感に包まれた。

OCOP全国キックオフミーティングにおいて、演台にで激励の言葉を贈る内田正氏

更に内田理事長は、2018年11月、ハノイ市内で開催された、ベトナム国内でOCOP関連プログラムを支援する国連機関IFAD、並びに、韓国やタイ等複数の国からの参加者のいる国際会議において、大分県発祥の一村一品運動の原理原則について説明した。

OCOP国際会議終了後の、内田正氏(左から6人目)、農業農村開発省新農村開発政策副本部長ゴ・タット・タン氏(左から7人目)

世界に広がる一村一品運動

台湾の「OTOP」

台湾ではOne Town One Product(OTOP)が展開されている。OTOP製品はデザイン性に非常に優れているのが特徴である。またOTOPのロゴには深い意味が込められている。1つ目の”O”は向かい合って微笑みながら乾杯する2人、2つ目の”O”は一緒に飛び跳ねて遊ぶ気の置けない間柄の2人を意味し、またこの2つの”O”の形は製品の外観も象っている。”T”は台湾最高峰の玉山を象徴し、イノベーションと企業家精神への飽くなき挑戦を意味する。”P”の足の部分は波を掻き分けて進む船を、”P”の頭の部分は舵を取る船頭を象っている。

OTOPを指揮するCorporate Synergy Development Centerの理事と山田邦永(撮影:2018年4月、台北市内)

パキスタンの「AHAN」

パキスタンではAik Hunar Aik Nagr(AHAN : ウルドゥー語で一技能・一地域の意)が展開されている。AHANは、新たな雇用機会を創り、パキスタンの地方の貧困をなくすため、本部のあるラホール、並びに支部のあるカラチ、ペシャワール及びクエッタを起点に、2007年より展開されている。AHANは日本の一村一品運動をパキスタンの現状に合わせて現地化しながら取り入れており、過去に大分国際一村一品交流協会をパキスタンに招待して直接指導を受けた経験もある。

AHAN製品を含むパキスタン製品の交易を担当する在ベトナムパキスタン大使館職員と山田邦永(撮影:2018年5月、ハノイ市内)

世界の一村一品運動

数多くの国で、国によっては現地語の名称を用いて、OVOPが展開されている。

  • マラウイ:One Village One Product
  • ラオス:One District One Product
  • タイ:One Tambon One Product(Tambon:集落)
  • マレーシア:Satu Daerah Satu Industri(マレー語で一地区・一産業の意)
  • コスタリカ:Un Pueblo Un Producto(スペイン語で一村・一品の意)
  • キルギス:Одно Село Один Продукт(キルギス語で一村・一品の意)
各国の一村一品運動のロゴ
一村一品運動の世界展開の歴史

世界で繋がる一村一品運動

NGO「IOVOP」の設立

International One Village One Product Partnership Institute(IOVOP)は、一村一品運動の振興を通して地域社会の持続的な発展を支援するために、有能で献身的な組織と人々を世界的につなぐ非営利、非政府の組織である。IOVOPは、世界における一村一品運動の創始者である大分一村一品国際交流協会並びにVietnam Handicraft Exporters Association(VIETCRAFT)及びVietnam Rural Industries Research and Development Institute(VIRI)が密接に連携し、2019年2月21日付で設立した。IOVOPのスローガンは、「Global Connection for Local Impact(地域のために世界を繋ぐ)」である。IOVOPは立ち上がったばかりの組織であり、40年に渡り世界の一村一品運動をリードしてきた大分国際一村一品交流協会を初めとして、多くの方々からのアドバイスを受けながら、より効果的な組織となるべく変化していく。

IOVOPの活動する5つの地域

IOVOP設立者 レ・バ・ゴック氏の大分訪問

1979年に大分県で始まった一村一品運動は、2019年に40周年を迎える。2019年1月、大分市内で開催された一村一品運動40周年記念事業セミナーに、IOVOP創設者の1人であるレ・バ・ゴック氏及びJICA青年海外協力隊である山田邦永が招待された。大分国際一村一品交流協会からいただいたテーマにて、レ・バ・ゴック氏よりIOVOPの概要及び世界の一村一品製品の販売戦略について、山田邦永よりベトナムと大分中小企業のビジネス連携の可能性について、県庁や市役所の職員、一村一品リーダー、ベトナムに興味を持つ実業家等、約50人の参加者へ説明した。その後、大分国際一村一品交流協会、VIETCRAFT、VIRIの三者が協力して世界の一村一品運動を推進していく合意書を交わした。

一村一品運動40周年記念事業セミナーにてプレゼンをするレ・バ・ゴック氏(右)及び山田邦永(左)
三者が協力して世界の一村一品運動を推進していく合意書を交わす、大分国際一村一品交流協会内田正理事長(中央)、VIETCRAFTレ・バ・ゴック氏(左)、VIRI山田邦永(右)

最後に

私が青年海外協力隊としてベトナムで活動している任期中に、ベトナムでOCOPを強力に推進する首相決定がなされ、またIOVOPが設立され、これから次々に生まれてくるであろう様々な可能性に、期待感を募らせている。VIRIの一員として、また青年海外協力隊の一員として、OCOP及びIOVOPをとおしてベトナム及び世界の地方経済の活性化を促し、社会的に弱い立場にある農民や少数民族等の貧困からの脱却に最大限貢献できるよう、より一層尽力していく所存である。

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