バングラデシュ

バングラデシュ食業界の今とこれから

Photograph: Masumi Okamoto

GDP成長率は毎年6%を超え、日本の4割の国土に1億6千万人以上が住むバングラデシュ。2015年には世界銀行による分類上「貧困国」から「低所得国」へ、2018年には国連の定める後発開発途上国の卒業基準を達成し、2024年にも正式に中所得国入りを果たす見込みの世界で最も勢いのある国の一つだ。しかし、外貨収入はユニクロやH&Mをはじめとする縫製業、海外の労働者による送金が9割近くを占め、一層の経済成長を実現するための産業の多角化・競争性の向上が求められている。そんな中、変革に向けた救世主として、今注目を集めるのが食品加工を中心としたアグリ・フード業界だ。密かに、けれども確かに成長を遂げるバングラデシュの食品産業についてレポートする。

「食」取り巻くこれまでの課題と対応

雨季には国土の4分の1が水没することもある自然環境の中、人口1億6千万人のお腹を満たすべくまず政府が取り組んだのは、主食のコメの生産性向上だ。1970年以降、開発援助機関などの支援を得つつ、高収量品種の開発や灌漑施設の整備を通じた生産の効率化のための対策を講じてきた。その甲斐あり、2010年代にはコメの食糧自給率100%を概ね達成。その後に発生した自然災害にともなう収穫量減少に対して政府は一時輸入米の関税を引き下げる措置を取ったものの、現在では生産量は持続的自給が可能なレベルまで回復していると言ってよい。

世帯収入と市場規模からみた食品加工産業の成長可能性

コメの自給を達成したバングラデシュの人々が次に求めたのは、コメ・イモ・野菜・果物等の原材料に加えこれらを加工した多様な食品だ。首都ダッカのスーパーマーケットのラインナップを観察することで、海外からの輸入品や国内で生産された加工品に対する消費者の嗜好をおおまかに掴むことができる。ボストンコンサルティング社によれば、特に世帯収入が400ドルを超える中間所得層の割合は2015年時点で全人口の約11%相当の約1,800万人、2025年には約3,400万人に増えるとのこと。またEuromonitor社によれば、2013年には98憶ドル(約1兆円)であった加工食品市場の規模が2018年には212億ドル(約2.3兆円)に2倍以上増加したのではと試算している。経済成長につれ所得が増加し、中~高所得者層がバングラデシュ国内のトレンドを形成し消費を牽引していること、また市場規模を示すデータからも食品加工業界が成長産業の一つであることが見てとれる。

加工食品のトレンド

2014~2018年の食品総売り上げ伸び率(下記表)を見ると、乳製品、ベビーフード、菓子、麺・パスタが上位にランクインし、加工食品のニーズが高まりつつあることがわかる。乳製品は輸入粉ミルクの需要が年率19%以上の割合で増加し急速に伸びているにもかかわらず、BRAC dairy and food社等大手数社のヨーグルトや牛乳を除き、多くが外国産もしくは輸入脱脂粉乳を使用した製品だ。菓子は輸入品に加え、ローカルの人々に愛されるスナック菓子Chanachurの他、PRAN社、Danish社のパウンドケーキやドライケーキ(パウンドケーキを焼いたもので、ラスクに近い)、Golden Harvest社のアイスクリーム等が国内で生産されている。さらに働く女性の増加を受けてか、手軽に調理可能な即席麺やパスタの売り上げも伸びている。

主な食品の総売り上げ推定伸び率(2014~18年)

健康を脅かす食品安全の問題

そんな食品加工業界において昨今最も話題となっているのは食品安全にまつわる問題だ。現地主要紙では少なくとも週に1回以上の高頻度で食品安全に関するニュースが掲載されている。原材料や加工品の品質の検査を所轄するバングラデシュ検査基準機関(BSTI:Bangladesh Standards and Test Institution)が行った微生物検査の結果を踏まえ政府は、異物混入や不衛生な水を販売したとする製造メーカーに対して販売資格のはく奪や販売停止命令を下した。また牛乳製造メーカー10社の製品から重金属混入や抗生物質の残留も確認され、原因は乳牛に与えたエサや薬、搾乳後の運搬段階における汚染であると指摘している。これら事案は、食品安全分野の取り組みというのは、加工段階のみならず、生産・運搬・販売に至るバリューチェーン全体で講じる必要があることを物語っている。このような状況を受けバングラデシュ政府は、省庁横断的に生産、加工、小売、輸出入といったバリューチェーン全体における食品安全を統括する省庁として新たに2015年に食品安全庁(Bangladesh Food Safety Authority: BFSA)を設立した。現在BFSAは法制度の整備、関係省庁との役割や機能の調整、フィールドで実施する監査システムの構築に向けた準備を進めつつある。

スーパーで見かけた意外な製品

昨今、スーパーマーケットで明らかに商品の種類と数が増えているのは冷凍食品と乳製品である。冷凍食品は陳列コーナーが拡張され、商品もパラタ現地で食される薄手のパン)やサモサ(肉や野菜を入れた揚げ物)やシンガラ(カレー味のジャガイモを入れた揚げ物)だけではなく、冷凍ソーセージ、冷凍肉までバリエーションが増しつつある。またアイスクリームの種類も増え、価格も20タカ(40円程)と庶民向けだ。これら冷凍食品の躍進は、大手Golden Harvest社などが冷凍庫や物流含めたコールドチェーンの整備を推進していることも影響している。さらに驚いたのは、バングラデシュ国内産チーズが販売されていたことだ。インドのパニールに食感が近い点が好まれるのか、ハードタイプよりもモッツァレラチーズをはじめとしたウォッシュタイプが主流だ。世間を賑わす食品安全問題のが頭をよぎり、食べたいような食べたくないような複雑な気持ちになり筆者はいまだ手が出せずにいる。しかしいつの日か、イタリア、フランスなどと並んでバングラデシュ産チーズが世界に出回る日がくるのかもしれない。

著者について

岡本 真澄:東京大学にて公衆衛生学修士号取得後、国際協力機構JICA入構。ウガンダ・コートジボワール保健事業、ケニア農業事業のインパクト評価、バングラデシュ食分野の案件形成に従事。現在は、食・栄養・病気の予防をライフワークとし、世界の人々の健康な暮らしを実現するため研究やビジネスに取り組む。

勝木 龍一:1984年、神奈川県出身、東京農業大学卒業後、青年海外協力隊としてザンビア国に赴任。帰国後、民間企業に就職。現在は国際協力機構(JICA)バングラデシュ事務所で企画調査員として農業・農村開発分野を担当。

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