国際

さよならJICA、はろーケンブリッジMBA

本日、5年強勤めた JICAを退職した。5年間、あっという間、では決してなかった。楽しいこともあれば、辛いこともあった。色んな思い出が蘇る。決して途上国での仕事が嫌になったわけではない。寧ろJICAで働いたからこそ、僕の人生は途上国に懸けたいと確信し、より強く思うようになった。

JICAも大好きだ。素敵な先輩・同期・後輩に恵まれてきた。普通なら味わえないような多くの機会をいただいた。それでも、JICAを辞めてケンブリッジ大学のMBAを取りに行くことを決断した自分がいる。これから新たな一歩を踏み出す前に、何故JICAを辞めようと考えたのか、ケンブリッジのMBAを取りに行くことに決めたのか、振り返りたい。

JICAでの5年間

JICAには2013年に入構し、2015年までは日本の本部でイラク・ヨルダン担当として下水・上水・運輸交通分野のインフラ案件への融資や人材育成、キャリア教育といった分野を担った。クルド自治区初の下水処理場建設案件や、ヨルダン初のキャリア教育事業をリードできたのは貴重な経験だった。

その後2015年から2018年までの3年間はエジプトに駐在し、地下鉄や発電所等のインフラ案件への融資や政策策定の支援に携わった。スエズ運河の料金設定のためのモデル策定や、電力自由化に関する助言のアレンジといったダイナミックな仕事は、本当に刺激的だった。

では何故JICAを辞めるのか?理由は3つある。

WhyさよならJICA?

社会構造の転換へのキャッチアップ

エジプトで3年過ごして驚いたことがある。現地政府の非効率性と、それと真逆のダイナミックなプライベートセクター・個人の動きである。私の担当した地下鉄案件は3年間で1ミリも工事が進まなかったが(※この案件が特殊な案件であったという側面も否めない)、対照的に、UBERの事業が急拡大し今ではほとんどのカイロの中流階級が利用する必須の交通インフラとなっている。また、有望な若手起業家も多くいて、運輸交通や電力のようなインフラ分野でも、社会を変えるんだという意気込みでたくさんの新しいチャレンジがなされている。

そうした動きを目の当たりにし、現在加速度的に進む技術革新とグローバル化により、社会の発展・変革を主導する主体が、国家から企業・個人へと遷移するしていくのではないかと考えるようになった。

では、そこにJICAが携われるか。もちろん動きは出てきている、しかし国際合意に準拠する必要のある政府機関である以上、どうしても途上国政府との間でのGtoGの事業が中心とならざるを得ない構造があると私は感じた。ならば直接的に現地に革命を起こすべく頑張る企業や個人をサポートしたいという結論に至った。

自分の意思で自分のキャリアをデザインしたい

実はエジプトは全く希望していなかった駐在先だ。イラクのような紛争国、もしくはサハラ以南のアフリカのような最貧国といった、より支援ニーズの高い国への配属を希望していたが、結果は比較的所得の高いエジプトだった。3年間の仕事で面白い経験も多かったが、アドレナリンが出るほど仕事が面白いと思えたことは、僅かだった。そういった文脈ではその前のイラク担当業務や、学生時代に携わった国際会議の方が、エキサイティングな経験だと感じた。

人生の終わりはいつ突然訪れるともしれない。その時、笑って死ねるためには、本当にやりたい仕事をやりたい場所でやり続けたいと感じた。それは一旦中東の色が付いてしまった自分では、そしてJICAのような比較的お役所のサラリーマンとして働き続けては、難しいのではないか、そう思った。

日本の政策への疑義

JICAは独立行政法人に位置付けられるが、実態は独立していない。政府の意向の影響はかなり強い。民主党が政治主導を唱えていたが、自民党に戻ってからむしろ官邸のリーダーシップは強くなっている。忖度という言葉が社会を賑わせた時期があったが、それは国際協力の分野でも変わらない。特に、日本のインフラ輸出を現政権は経済政策の柱に据えているが、この政策と日本の国際協力の柱である円借款が結び付けられてしまい、国際協力の実施に際する自由度に大きな制約が生じている。

あまり日本では知られていないが、円借款のインフラ案件の多くは現在日本企業の受注が想定されるものとなっている。中国や韓国、欧米も同じことやってるんだから何で悪いの?日本が利益のない案件作る必要ないでしょ?という声もあろう。だが実態としてこの日本企業紐付け案件が上手くいっていないという状況を知ってほしい。昨今の円借款案件の多くで、入札不調というものが起きている。すなわち、本邦企業が入札に参加せずに不成立となる、もしくは一社のみの応札で価格が高騰し、現地政府の予定価格を超過するという事態が相次いでいるのだ。考えてみてもらいたいが、インフラ案件が一気に増えたとして、製造能力や施工能力をそんなに急に増やすことが可能だろうか?いや、不可能だ。加えて、国内のインフラ需要もオリンピックやリニア等で増えている。そんな中でリスクの拭えないインフラ案件なんて本邦企業も取りに行かないし、取りに行くとしたら大きな利益を求めるのは明らかだろう。

結果、円借款の案件は失敗し、日本の信頼が損なわれている。勿論こうした失敗を重ねて政府も政策に修正を加えてはいるが、一度掲げた旗を降ろすには至らない。そうやって生まれた官製需要により、自由市場が歪められていく。

私はこの自由主義という思想を非常に大切にしている。そこに歪みを生むような社会主義的な政策の実施に加担するのは理念に悖るものであり、どうしても納得が行かなかった。経済政策における社会主義的な思想というのは日本の政策のNatureに近いと私は感じていて、一過性のものとは思えなかったのである。そして、JICAが日本の機関である以上、政府との関係は変えられないのではないか、理念に合わない政策の実行に携わることからは免れられないのではないかと感じてしまった。

さて、では何故MBAか?さらには何故ケンブリッジか?

WhyハローMBA?

MBAを選んだ2つの理由

まず、何故MBAかだが、大きな理由は2つ。一つはキャリアのオプションの広がり方だ。途上国の意欲ある企業や個人を直接サポート、という文脈だとインキュベーターやPEファンド、テック企業等が面白そうだと思ったのだが、JICAでの5年間のキャリアしかない私の場合はそこに直接飛び込むのは難しいだろう。起業というオプションもあるが、ビジネス経験の無い中でなかなか勇気が湧かない。その点海外の有名MBAであれば一・二年という短期で幅広くビジネスを学ぶとともに、世界中にネットワークを作ることができ、キャリアオプションを大きく広げられる。それまでとは全く違う業界へキャリアチェンジする卒業生も多くいるし、起業する術も学べる。バッチリではないか。

もう一つは海外で働き続ける上で必要なグローバルなチームを率いる能力の向上だ。今後のキャリアは極力途上国もしくはそうした国を総括するグローバル企業の海外オフィスで積む、もしくは現地で企業したいと考えているが、JICAで様々な国籍のカウンターパート・同僚と働く中で、そのためにはインターナショナルなチームをマネージするために必要なマネジメント力・リーダーシップといった能力の向上が不可欠と感じた。MBAであれば幅広いバックグラウンドの同級生ときってはったする機会を多く持てる。

ケンブリッジを選んだ理由

次に何故ケンブリッジか。正直相当迷った。自慢ではないが、受けたMBA校5校全て合格しており(正確には一校は最終選考辞退)、どこに行ってもきっと素晴らしいキャリアが描けたと思う。さらに言うと、辞退した中にはFinancial Times等のランキングでケンブリッジより高い学校も含まれていた。

その中で最終的にケンブリッジに決断した理由。不確実性とフィーリングに集約される。まず不確実性だが、他のMBAは金融やコンサルといった、The MBAなキャリアを選ぶ学生の多いところがある一方、ケンブリッジはいきなりスタートアップに就職したり起業する学生が一定数いた。学校としてもアントレプレナーシップやテクノロジーを売りにしており、JICAともっとも遠いものを感じた。恋愛でも恋に落ちるのは遺伝子的に構造が正反対であることが多いと聞くが、そうした振れ幅から生じる不確実に、私は恋した。次にフィーリング。これはただただフィリーングとしか言えないが、初めてキャンパスを訪れた時、ここに行きたいと強く感じた。他の学校も面白かったが、街の雰囲気、学生の雰囲気、ケンブリッジの提供するカリキュラム、どれも本能的に、ベストを感じた。ここだ、と思った。

非常に長くなったが、そんなこんなで私は今日退職した。未来は輝かしいのか、まだ分からない。それも結局は自分次第だ。ここまでお世話になったJICAの皆さんや仕事で携わった多くの方々に胸を張って会えるように、そして、未来の自分が今の自分にこの選択を肯定できるように、まずはこれからの一年をケンブリッジで、全力で駆け抜けたい。

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