ヨーロッパ・中央アジア

中央アジア地域の開発の現状

Photograph: Akitoshi Iio
Photograph: Akitoshi Iio

独立後24年を経過した中央アジア地域を振り返ると、中央アジア諸国は共通して旧ソ連時代の遺産である共産主義・計画経済から市場経済・民主主義への移行を国家運営の中心に掲げ、旧ソ連時代にモスクワの支配下にあった歴史からの脱却を目指し、欧米、トルコ、インド、中国、そして日本や韓国等と新しい国際関係を構築する時代を経験してきました。特にロシア、中国、米国といった大国との関係では常に変化が見られたといえます。近年は、地理的にロシアと中国にはさまれたユーラシア大陸の内陸国として、また石油、天然ガス、ウラン等の資源を抱える資源国として、近年、エネルギー安定化及びエネルギー資源多様化のために注目を浴びる存在となっています。

中央アジア地域の経済開発の度合いについては、資源国と非資源国間で開発の進展に対象的な違いが見られます。資源国であるカザフスタン(一人あたりGDP12,276ドル)とトルクメニスタン(1人あたりGDP9,031ドル)は既に上位中所得国となっており、ウズベキスタン(1人あたりGDP2,037ドル)、キルギス共和国(1人あたりGDP1,269ドル)、タジキスタン(1人あたりGDP1,099ドル)が低位中所得国となっており低開発の状態が続いています。今後も、資源国と非資源国間の経済格差は広がっていくことが予想されます。

更に同地域では、上流国のキルギス共和国とタジキスタンと下流国のカザフスタンとウズベキスタンの間で常に抱えてきた問題が存在します。上流国と下流国間で電力・水資源をめぐる争いが絶えず続いています。特に、近年はタジキスタンの世界一堤高が高いログン水力発電所の建設計画があり、これに反対するウズベキスタンとタジキスタン間での対立が顕著となっています。タジキスタンの水力発電所建設に敏感なウズベキスタンが電力供給停止、鉄道輸送路封鎖による建築資材の輸送の妨害といった措置をとっており、一定の緊張関係が継続しています。北部アフガニスタンに隣接するタジキスタンは、アフガニスタン復興へ向けての電力供給源として期待されており、同国での水力発電所建設には数多くの外資が参入し、水資源問題は中央アジア地域を超えた国際政治的文脈を持ちつつあります。2012年9月には、ウズベキスタンのカリモフ大統領が、「(水資源問題が中央アジア地域において)戦争を引き起こす可能性がある」と公式の場で発言するに至っています。このような状況から、隣り合う国ながらタシケントとドゥシャンベを結ぶ航空航路が運行されていない状況が続いているのです。

Photograph: Akitoshi Iio
Photograph: Akitoshi Iio

資源国においては、資源による国家収入増を背景に国内産業の強化に務めていますが、農業に依存した経済からの脱却が完全に出来ているわけではありません。ウズベキスタンは豊富な石油や天然ガス、鉱物資源を有することや、外資との合弁会社設立による自動車産業の強化等を背景に工業化を推進してきてはいるものの、依然、経済の主体は農業に依存している状況が続いています。

また、世界4位(約6万6千㎢。九州のおよそ1.5倍)の湖であったアラル海の、灌漑農業による流入河川(アムダリア川とシルダリア川の2河川)からの過度な灌漑用の取水によって流入量が減少し引き起こした枯渇と、乾燥地域特有の地下の塩類による土壌塩性化による流域の健康被害も大きな問題となっております。カザフスタン側の「小アラル」は世界銀行の融資を受けて、水源の確保に成功した一方、ウズベキスタン側では、年々枯渇が進み、2014年にはアラル海の大部分をしめる「大アラル」が初めてほぼ完全に干上がるという事態に陥りました。地球温暖化の影響で、アラル海の水源であるタジキスタンの山岳地帯の氷河は今世紀中ごろには消滅すると見られる一方、アラル海水系流域に居住する人口は増加し続けており、水ストレスが高まることが予想されます。ただし、ウズベキスタン側では、天然ガスが埋蔵されており、外資を呼び込みガス開発が進んでおり、アラル海海底だった地域(ウズテュルト)では現在、韓国企業によってガス田開発が行われています。「20世紀最大の環境破壊」と言われるアラル海問題は、環境と経済という両立しにくい問題とどう向き合うかを広く人類に問うているといえます。

資源国の中でも一番経済発展が著しいカザフスタンは、ODAを供与する側にもなろうとしており、カザフスタン政府の援助実施機関の設立に向けても前進しています。2014年12月にKAZAID設立の法案が国会で承認されており、今後支援を実施する側になっていきます。現在、組織の立ち上げのため国連開発計画(UNDP)や独立行政法人国際協力機構(JICA)が援助機関としてのノウハウを技術援助している段階にあり、「カザフスタン2050」のビジョンに則り世界先進30カ国入りを目指すカザフスタンは新たな段階に入ろうとしています。ただし、カザフスタンのような中所得国は、国家の経済は発展しているにもかかわらず、都市部と農村部では、経済成長の恩恵が平等に再分配されておらず、貧富の格差が益々広がっており、必ずしも市民の生活が一律に向上しているとはいえない傾向にあります。

同地域での経済開発の進展が遅れているのは非資源国のタジキスタンとキルギス共和国です。特に、キルギス共和国は2005年と2010年に2度の市民革命を経験しており、国の統治能力(ガバナンス)に不安要素もはらんでおり、脆弱性の高い国となっています。タジキスタンは独立後90年代に内戦を経験しており、国家建設のスタートに遅れを取ったこと、また大統領による強権的な国家運営の影響とアルミニウム精錬を除いて工業は発展しておらず、綿花栽培を中心とする農業中心経済により、開発の道筋に兆しが見えてこない状況にあります。タジキスタンでは今年に入り警察幹部のIS合流や、現職の国防次官が率いた武装勢力による政府機関襲撃事件(事件直後、次官は免職)などの事件が起こっており、同国の安定化は隣国アフガニスタン情勢とも関連して一層重要となります。

他方、近年の中央アジア地域は、強固な経済政策によりリーマンショック後でも高い経済成長を維持(7-8%)してきました。ただし、ウクライナ危機後の経済制裁等の影響でルーブル安が続いており、ロシア経済と密接に繋がっている中央アジア地域の経済に与える影響は小さくありません。特に国家GDPの約4割がロシア等に出稼ぎに出ている出稼ぎ移民からの海外送金に頼るタジキスタンでは、ルーブル安の影響を大きく受けています。近年、ロシアでは移民労働者にロシア語の語学試験の受験を課す動きもあるなど、出稼ぎ移民は受け入れ国であるロシアの態度に左右され、不安定な立場に置かれている。タジキスタンやキルギス共和国にとって、安定的な国家経済基盤の確立が必要であるといえます。

 

※複数回にわたって、シリーズ「日本による中央アジア地域支援の展望-安倍首相中央アジア訪問に寄せて」を掲載していきます。

 

寄稿者: 中央アジア・コーカサス開発研究会

  • 二瓶直樹(国連開発計画対外関係・アドボカシー局)
  • 飯尾彰敏(元中央アジア地域有償資金協力専門家、JICAエチオピア事務所)
  • 齋藤竜太(筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)

特集: 日本による中央アジア地域支援の展望

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