ヨーロッパ・中央アジア

中央アジアの「今」を読む

連載のはじめに

中国の西側に隣接する中央アジア地域は、地政学的には、旧ソ連時代からの歴史的経緯もありロシアの影響を受けてきた。しかし、近年は中国による影響がますます拡大しつつあります。中国による「一帯一路」構想の影響を受けながら 、ロシアとの関係を維持しながら、様々な開発上の課題と向き合いながら発展しを続けるのが現代のシルクロードと呼ばれる中央アジア地域です。

中央アジア地域は現在、新たな岐路に立っています。2016、2017年に、ウズベキスタンやキルギス共和国にて歴史的な体制移行を経験しました。中央アジア地域では、国ごとに独立後に歩んだ道のりや国家建設の過程が異なることから置かれている状況は異なりますが、過去数年の間に経験した政治体制の変化は、地域内の関係や経済に大きな影響を与える変化でした。本連載では、最近の中央アジアにおける地殻変動ともいえる政治・経済上の変化を踏まえながら、現在、中央アジアで起こっている変化や事象を見ながら、変わりいく中央アジアの社会を紹介していきます。

拡大する中央アジアにおける中国の影響

2017年5月、中国は北京にて、中国が国家プロジェクトとして推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」国際協力サミットフォーラムを開催しました。このサミットには、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領ら29カ国の首脳が出席、中国主導の経済圏構想への支持や協力をアピールする大きな機会となりました。習主席が提唱している一帯一路とは「陸と海のシルクロード」に沿った経済圏で、中国からヨーロッパを結ぶ沿線の60カ国以上が対象となります。中国はこれらの国家のインフラや物流拠点の整備などを通じて経済成長を促し、互いに発展をもたらすものとして主導しており、ユーラシア地域の中心に位置する中央アジア諸国はサミットにも参加して(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスは大統領が出席)、本構想に深く関与し、また中国からも援助や投資を通じて国内の経済インフラ等の整備の恩恵を受けています。

中国は、中央アジアと西側で国境を接しており、具体的にはカザフスタン、キルギス、タジキスタンの3カ国と陸で接しており、経済的にも中国製品やインフラ建設の資材等が陸路インフラにて輸送されるため、深い結びつきがあります。中国・カザフスタン国境に位置するホルゴスには、国際特別経済区が設置されており、物流拠点として一帯一路構成の中でも重要な位置づけにおかれています。日本からは、ホルゴスを経由する中国経由の輸送ルートは、従来のシベリア鉄道を使用したルートのユーラシア方面大体輸送路としての期待も高まっています。中国は、隣接する中央アジア諸国内で道路や鉄道建設・整備を進めて、自国の経済的影響を年々深めているのが現状となっています。

経済面では、中国の影響は年々強まる一方ですが、その一方現地における中国に対する感情は反比例しているな印象が感じられます。キルギスでは、2019年1月、首都ビシュケクのアラトー広場で約200-300人規模の今までで一番大きな反中デモが起こりました。キルギスでは、中国輸銀等の借款を利用したインフラ等融資開発事業を通して、キルギス国内に、近年中国人移民や労働者の流入が増加し、現地の雇用が奪われているとの不満が国民の間で高まっていることが背景にあります。また、中国企業が改修したビシュケク市内の熱併給発電所が故障し、昨年真冬に5日間の停電が起きたことも国民の間での大きな不満の種となっています。政治・経済面での中国の影響力が強まる一方、現地社会では必ずしもプラスになっていないことを露にした出来事でした。

Photograph: Alexander Fisher

ロシアによる中央アジア経済への影響

ロシアは、2014年に発足させたユーラシア経済連合(Eurasia Economic Union: EEU)を軸として、中央アジア地域へ経済的関与を深めています。当初ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3カ国で発足し、2015年にアルメニアとキルギスが加わり、2017年にモルドバがオブザーバー国となっています。中国との関係でEEUへの加盟をタジキスタンがどのように検討していくのか、またウズベキスタンが今後加盟に向けた動きを探るのかが注目されます。

2016年6月にプーチン大統領は中国・インド・パキスタンなどの上海協力機構(SCO)加盟国とEEUを軸に築く「大ユーラシア・パートナーシップ」と第一段階として中国との交渉協議を目指す計画を発表しています。2017年5月の一帯一路国際協力サミットフォーラムにて、ロシア・プーチン大統領は一帯一路、上海協力機構、ユーラシア経済連合などは同構想の基礎となると発言しており、EEUは、SCOや一帯一路構想と補完し、ユーラシア地域に関与していくものとして位置づけています。

キルギスにおいては、ロシアはロシア・キルギス開発基金(Russia- Kyrgyz Development Fund)なる組織を2015年に設立し、資本金を10億ドルとしてキルギスの経済セクターへの投資を進めています。ロシアによるキルギスへの借款総額は488百万ドルといわれており、国家債務が膨らみつつあるキルギスは、ロシアに支援を要請し、2013年に188百万ドルの債務帳消し、2018年2月には追加で300脈万ドルの債務帳消しが発表されており、キルギス経済のロシアへの依存度は非常に高いといえます。

ウズベキスタンにおける政権交代の影響

2016年9月にウズベキスタンを独立以来、国家の発展を指揮してきたイスラム・カリモフ初代大統領が逝去し、ウズベキスタンは国内初の体制移行を経験しました。内部での権力闘争などは表面化することはなく、治安上の大きな混乱を経験せずに、第二代大統領はカリモフ政権において長年首相として国内の工業や農業分野の中心に担当したシャフカット・ミルジヨエフ氏に引き継がれました。ミルジヨエフ大統領は、カリモフ大統領の統治方針を少しずつ変えて、経済面では、長年存在した闇両替を廃止し、為替の統一を実施、ビジネスや投資環境の改善に取り組んでいます。また更なる国内産業の強化、税制の改善、教育システムの改善に加えて、内務省や軍事面でも国内の統制体制を変化させてきており、2018年1月には治安部門トップの人事にも手を入れており、人事面でも徐々に体制移行に着手しています。また、2019年には政府内の体制や省庁の再編、権限の分散などにも取り組みが及んでおります。

また対外政策を大きく転換させており、積極的な外交を展開しています。2005年のアンディジャン事件後に受けた外的な圧力を契機に、かなり閉鎖的な対外政策を維持してきたカリモフ政権と異なり、ミルジヨエフ政権は、国連や欧州連合(EU)等の国際機関をはじめ、諸外国との関係の強化に積極的に取り組んでいます。海外歴訪も非常に速いペースで進めており、中央アジア域内に加えて、米国、ロシア、中国、サウジアラビア、韓国、トルコを既に訪問しています。2019年には、インドとドイツを訪問しました。特に顕著なのは、中央アジア地域内での関係強化を優先事項として掲げており、2017年に経験した、ウズベキスタンとカザフスタンやキルギスとの間の関係強化は域内の連携に大きなインパクトを与える動きとなりました。ミルジヨエフ大統領は、今後は、日本や欧州諸国への歴訪と関係強化を図ることを想定していると考えられます。

ウズベキスタンとカザフスタンの関係変化

ミルジヨエフ大統領は就任直後、ウズベキスタンがカリモフ政権時代に、閉鎖的な外交政策を採っている合間に、国際社会でのプレゼンスを強化したカザフスタン・ナザルバエフ大統領との関係強化を図りました。カザフスタンは、2017年より国連非常任理事国入りを中央アジア諸国から初めて果たし、国際社会におけるリーダーシップの発揮に力を入れていると見られます。独立後にセミパラチンスク核実験場を廃止したカザフスタンは、日本と同じく核廃絶を訴えており、日本と協働し核の不拡散に取り組んでいます(2016年11月にナザルバイエフ大統領が訪日した際に、広島を公式訪問しています)。また、2018年は首都のアスタナでシリア支援国会合のホストを行っており、旧ソ連内にとどまらず国際社会における平和や安定のための貢献を積極的になっていることが伺えます。なお、2018年1月カザフスタンは国連安保理での議長国を務め、中央アジアとアフガニスタンの域内協力の推進にかかるイニシアチブもとりました。

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