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開発途上国の雇用・貧困問題の現状と見通し

Photograph: Ippei Tsuruga

世界の失業者数は増加傾向

国際労働機関(ILO)が発表した推計[1]によれば、2018年の世界の失業率は5.5%へ改善する(前年比-0.1%)。これは世界経済の好調を背景に、雇用創出が堅調に推移することを見込んだ数字だ。

しかし、労働人口の増加ペースを鑑みれば、更なる雇用創出が求められる状況が浮き彫りとなってくる。2019年の失業率は同水準になると推計される一方、失業者数は1億9,200万人から更に130万人増加する見通し。特に開発途上国では雇用創出が労働力の供給ペースに追いつかないことが予想されている。

雇用の質の悪化

雇用創出が進む一方、雇用の質の低下が懸念されている。不安定な雇用形態(Vulnerable Employment)[2]で就労する労働者は全世界に約14億人(42%)おり、途上国に至っては労働者の76%、新興国では46%がこうした雇用形態で生計を立てている(2017年)。不安定な雇用形態で就労する労働者数は2012年以降減少傾向になく、2019年までに3,500万人の増加が見込まれる。

3分の2が働く貧困層

働く貧困層(ワーキングプア)の問題についても進捗は必ずしも芳しくない。新興国と開発途上国の労働者のうち3億人が極度の貧困状態(一日あたり1.90ドル未満)にあり、7.3億人が貧困状態(一日あたり3.10ドル未満)にある。新興国では働く貧困層の減少傾向が見られる。一方、開発途上国ではその減少速度が労働力の成長速度に追いつかず、絶対数では増加傾向が続くと予想される。2017年の開発途上国における働く貧困層は就業者全体の67%(1億8,600万人)にのぼる。

このように雇用統計に一定の改善傾向が見られる一方、減少しない失業者数と劣悪な環境で働く労働者の絶対数が必ずしも減少傾向に無い状況も鮮明となっている。持続可能な開発計画(SDGs)が「誰も取り残さない」を合言葉にしている以上、こうした状況は2030年までに改善しなければならない喫緊の課題と言える。

ジェンダーと高齢化と経済構造転換

女性の就業率は依然として男性をはるかに下回り、女性の仕事の質も給与も男性より低くなる傾向がある。また、開発途上国で不安定な雇用形態で就労する男性が全体の72%であるのに対し、女性は更に多い82%となっている。

高齢化の影響も大きい。今後急速に増加する退職者を補うだけの労働供給量は想定されていない。年金制度が抱える課題に加え、高齢化による生産性の低下も懸念される。

また、産業別就業構造の変化に関しては今後も農業と製造業の就業者は減少を続け、第三次産業が雇用創出の推進力となる。


[1] ILO. 2018. World Employment and Social Outlook: Trends 2018.
[2] 個人事業主と家族の事業に貢献する家族従業者

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