エリトリア

エリトリアの若者と雇用

Photograph: Andrea Moroni

はじめに

2019年8月28日から30日まで開催されたTICAD7において、ILOは「Jobs4Youth:若者と仕事」をテーマにしたサイドイベントを主催しました。この記事は、「アフリカの若年雇用」と括られるものの中にある多様な仕事の世界の実態を知る第一歩として、著者が行った聞き取りをもとにしています。

ともすると一括りで語ってしまいがちなアフリカ。その大陸には50を超える国があり、それだけを見ても状況は様々であることが想像できます。若者たちが「仕事の世界」をどのように経験しているのか。就職の仕組みはどのようなものなのか。彼らはどのように仕事を見つけ、どのように職を得るのか。彼らにとって「良い仕事」とはどのようなものか。「良い仕事」を得るために何が重要な要因になると考えられているのか。その国に身を置き生活をしてきた知人への聞き取りから、これらの疑問への答えを考えたいと思います。

今回取り上げるのは、エリトリアだ。日本で暮らしているとあまり耳にしない国名かもしれない。アフリカ大陸の「角」、東南部に位置するその国土は、東側は紅海に面し、西をスーダン、南をエチオピア、そして南東をジブチと接している。ほかのアフリカ諸国が、欧米諸国から独立を果たしたのに対して、エリトリアはエチオピアとの間で独立戦争を経験し、1993年、周囲のアフリカ諸国からは30年ほど遅れて独立を果たした歴史がある。エチオピアとの国境戦争は、エリトリア国内のインフラを破壊し、その振興が待たれるほか、兵士として動員されていた者たちの動員解除及び退役後の社会復帰、難民や国内避難民の復帰等も課題として残されている。

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「自国のことを話すのが難しい」

「就職事情や教育のことを教えてほしい」とお願いすると、エリトリア出身の友人たちは快く承諾してくれた。しかし、いざ話してみると、多くの質問について何度も口ごもり、答えるのを躊躇う。そしてしばらく迷ってから、口ごもる理由を話してくれた。

「私たちの国では、なんでも自由に話すというのは困難です。…なんというか、発言には気を使う。話すのが難しいんです。」

人口500万人弱、ティグリニャ族やアファール族をはじめ9つの民族が暮らすこの国では、どのような就職の仕組みがあるのだろうか。

エリトリアの教育と訓練

エリトリアの教育制度は、初等教育5年、中等教育3年、後期中等教育4年、大学4年である。高等教育を出た時点で、全ての男女がサワ国防訓練センターと呼ばれる施設で軍事訓練に従事することが定められている。18歳で高校卒業を迎えると、その後6か月間、寮で寝起きし、軍事訓練を受けるという。現在もエチオピアと緊張関係にあるエリトリアは、自国の人口規模が小さいために、有事に備え国民全員が兵役のトレーニングを受けるのだという。

エリトリアから留学する

サワでトレーニングを受けたのち、友人たちは大学に進んだ。どの大学に入れるのか、何の専門を学べるのかは、サワのトレーニング中に試験があり、それによっておおよそ決まるという。友人たちには留学経験がある。エリトリアにおいて、海外留学を実現するというのは、生易しいことではない。ある友人によれば、政府にとって海外留学は、一つの賭けなのだという。

「政府は、優秀な若者を必要としています。海外の大学院で質の高い教育を受け、知識を豊富に持った人材は欲しい。しかし同時に、留学のため国外に出ていった若者がそのまま国外での生活の術を身につけ、エリトリアに帰ってこない場合も多いのです。留学先の候補として最も多いのは中国です。やはり思想的に似たところのある国だからでしょうか。留学は、学部時代に最も優秀な成績を収め、さらに所属する大学に何度も頼み込んだうえで、かなり倍率の高い奨学金競争を勝ち抜きやっと実現します。」

エリトリアと就職

では、教育課程を終了した先は、どのような仕事が待っているのだろうか。まず、エリトリアでは、大学卒業後どのように仕事の情報を得るのかを尋ねた。ほぼすべての若者は、大学入学時に国家の名簿リストに登録され、卒業時それぞれの専門に合わせて仕事が割り振られる仕組みになっているという。

― エリトリアでは、そもそもどのようにして仕事を見つけるのですか。

卒業後に自力で仕事を探す必要はありません。卒業後は、それぞれが学んでいた専門に合わせて政府から割り振られる仕事に従事することになります。文系学部の場合は、基本的に教師か法律関係の仕事、または行政に携わることになります。

プライベートセクターにフルタイムで就職できるのは、軍事訓練を受けるに適さないと判断された障害を有する人々やおおよそ50歳を超えた人々、また結婚し子どもを持った女性であり、例えばスーパーマーケットのレジなどは、ほとんどがそのような女性であるという。障害を有する、もしくはおおよそ50歳を過ぎている、という条件は、パスポートを取得できるかどうかの条件でもある。それ以外の人々は、基本的にエリトリア国内で暮らし、国が提供する仕事にそれぞれ従事することになる。

エリトリアにおける「よい仕事」

次に、ILOが掲げるディーセント・ワークに関連し、望ましい仕事について質問した。どのような仕事が望ましいか、何がよい仕事の条件かと尋ねると、またも友人は答えに窮した。そして、「それは考えられない、仕事は選べないから」と答えた。

― 何がよい仕事の条件だと思いますか。

・・・難しい質問です。まず、給料については、ほぼすべての仕事について一律なんです。農業や鉱業が中心産業ですが、今エリトリアの港は自由に使える状態にないため、政府は国内の限られた資源でやりくりするしかありません。だから、給料もごくわずか。今はもっともらえるようになっていますが、私が子どものころは一か月の基本給は900ナクファ(40ドル程度)でした。ただし、医療関係者は少し高い給料がもらえます。エンジニアも、ものによりますが多少給料が高いので、比較的良い仕事だといえるでしょうか。とにかく、仕事は選べないのです。

仕事や雇用の世界を考えるとき、私自身「仕事を選ぶことが出来る」ということを前提としがちだ。実際には、自身の能力や求められる資格、年齢など様々な制約を負っているし、真に自由に仕事を選ぶことはできないのだが、それでもどこかで必ず「選ぶ」という段階は経る。職業訓練の仕組みを整備する、など若者の雇用をより良い状況につなげるプロジェクトも、自由な競争が行われる労働市場を前提としたものであるようにも見える。自由に競争が行われる雇用の世界は不安定であるかもしれないが、同時によりよい仕事に就くことへの想像の可能性も担保する。選択の可能性がないことは、よりよい仕事や働き方への想像力も、同時に制限するのかもしれない。

エリトリアと難民

友人たちはまた、自国の難民・移民の存在にも触れた。エリトリアは、難民の出身の多い国として世界で第9位に入る(UNHCR 2018: https://www.unhcr.org/5d08d7ee7.pdf )。ある友人は、昨今様々なメディアで取り上げられるシリア難民と比較し、エリトリアの難民が国を出る理由を、「未来が見えないから」と話した。

「エリトリアでは、難民も深刻な問題になっています。シリアで難民が発生するのは、そこに戦争があり生活することが不可能だから。でも、エリトリアで難民が発生するのは、「彼らにとって未来が見えないから」なんです。資源もなく、圧政が続いて自由も選択肢もない。だから国の外に出ていこうとするんです。」

このような状況では海外に出て働くことが一つの理想的な進路となっても不思議はない。だが、ひとりの友人に将来について尋ねると、「海外で博士号を取得したら、エリトリアで働く」と話した。

「修士だけでは、「何者か(”someone”)」になることはできません。例えば、修士号を取れば大学で教師として働くことは出来るけれど、それを取りまとめる地位に就くことが確約されるわけではない。でも、博士号を持っていれば人々からの尊敬も得ることが出来、大学の学長になることも夢ではありません。博士号を取得していればエリトリア国内でも研究者であるとして扱われ、研究のために海外に渡航することも可能になると、私は思います。だから、まずは海外で博士号を取得し、自国で働こうと思っています。」

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著者は、将来の進路について様々に思い悩むことが多々あります。その際、少なからず「より良い仕事やよりよい未来につながる選択をしたい」という想いがあるのではないかと思います。「思い悩むことができるのは、選択肢があるから」。「よい仕事」の条件を尋ねられ答えに窮した友人たちを前に、改めてその当たり前のことに思い至った聞き取りでした。

若者の雇用を考えるとき、その国の「仕事の世界」の実情がどの様なものであるのかと同時に、若者自身から見える「仕事の世界」がどの様なものであるかを知ることも重要であるように思います。その二つは、必ずしも一致しているとは限りません。記事で扱う限られた数の聞き取りでは、一国の「仕事の世界」すべてを明らかにすることは出来ませんが、ある個人が仕事の世界をどう捉えているのかを垣間見ることができれば幸いに思います。

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