インドネシアは2023年に65歳以上の人口が全人口の7%を超え、国際連合人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA)の定義による「高齢化社会」に突入した。多くのインドネシア人やメディアは依然として「人口ボーナス」を語り続けているが、財務省や人口動態を研究する専門家の間では危機感が広がっている。推計によれば、インドネシアは2045年頃に高齢者人口が14%を超える「高齢社会」へと移行する見込みである。
この移行期間はわずか20年程度であり、日本よりも早いペースで高齢化が進行している。ベトナムとほぼ同等のスピードだ。若年人口についてはすでに減少傾向にあり、今後急激な人口増加は考えにくい。人口予測は経済予測と異なり、高い精度で的中する傾向がある。この人口動態のトレンドは、ほぼ間違いなく正確と考えてよいだろう。
インドネシアの経済構造を支えているのは消費行動である。国内総生産(Gross Domestic Product: GDP)においても消費の割合が大きく、多くのインドネシア人は積極的に消費し、貯蓄をあまり行わない傾向がある。これは将来への不安が少ないことと関連しているように思われる。
全国各地で労働者など最低賃金で働く人々との政策対話を通じて見えてくるのは、多くのインドネシア人が老後に子どもの世話になることを前提としていることだ。そのため長期的な計画を立てる必要性を感じていない人が大半を占める。これは昔の日本や他のアジア地域と似た家族観や人生観である。
また、インドネシア人の国民性として顕著なのは楽観的な姿勢である。年中何らかの食物が収穫できる気候条件下で、冬のような厳しい季節がないため、ヨーロッパや日本のような地域とは異なる国民性が形成されてきた。食糧不足や飢餓のリスクを定期的に感じる必要がなかったことが、現在の消費重視・貯蓄軽視の経済行動に影響している可能性がある。
インドネシアの社会・文化構造においては、エリート主義が顕著である。富裕層、高学歴者、名家出身者が評価され、社会経済の上層部を占める傾向が強い。行政や政府の上層部には博士号取得者が多く、この構造は制度化されている。
社会的特徴として目立つのは、地位が上がると他者への配慮が薄れる傾向だ。古くからの知人であっても地位が上がると連絡が取れなくなる、約束をキャンセルするといった事例は珍しくない。また、相手の社会的地位によって対応を変える国民性も強い。外国人観光客や駐在員などには非常に親切だが、それは相手を「上」と見ているからであり、「下」と見なした場合は態度が一変することが多い。
こうした文化は政策や行政の現場でも大きな影響を与えている。社会的地位が上の人の指示が優先され、正しさよりも上司の意向が重視される。そのため、省庁間の調整や政策対話が非効率になりがちだ。各省庁が直接対話せず、国際機関などの仲介を求めるケースも少なくない。一旦「上」に指示を仰がなければ「下」の者は何も約束することができず、逆に合意したと思ったことが、「上」の指示により180度変わることがある。「外部へ迷惑をかけるので、責任を持って『上』を説得します」と宣言する人材に出会ったことはない。「上」が絶対なのだ。
政策対話の場では、参加者を「単なる参加者」と「発言者(ナラスンバー)」という二つのカテゴリーに分けることが一般的であり、後者は特別扱いされる。この区分けは社会的地位の違いを明確にするものであり、対等な議論の障害となっている。労働組合の代表者が「ナラスンバー」として招かれることは稀で、政府関係者は自分の発言前にはVIPルームへ通され、発言が終わると退席してしまうため、真の対話が成立しない。
このような状況下では、不満が蓄積すると議論での解決や対話が成立しないため、集団デモという形で不満が表出する。社会的地位の高い人々が低い人々と対等に対話しないため、声を届けるには集団の力が必要になるのである。この問題が根深いのは、「上」の人が意図的に悪いことをしているのではなく、そうやって社会が回っていることだ。たとえば、登壇者が退席するときに、「おかしいだろ」と声をあげる人はおらず、会議が終わってからコソコソとやってきて、個別に不満を伝えてくる。議論の場で他者の行動へ口出しできない文化が変化を許さないのだ。
インドネシアでは富裕層がさらに富む社会構造も存在する。相続税の有無などの制度的制約以外にも、裕福な層が裕福であり続ける社会的な仕組みもある。また、部族や宗教といった集団の中で情報共有や採用・人事が行われる傾向があり、真の国家としての一体感は希薄である。国を一体にしているのは、インドネシア語という共通言語、国旗、国歌の三要素であり、それを除けば社会・制度的な一体感は薄い。
また、労働市場では女性の労働参加率が約50%と非常に低く、男性の約85%と比べて大きな開きがある。特に結婚後は従業員として働き続ける女性は少なく、自営業や零細企業の経営者として労働統計に現れる傾向がある。食事を作って売ったり、家にいながらできる仕事をしているのだ。これは女性は家庭にいるべきだという文化的・社会的背景が影響していると考えられる。
インドネシアの将来を見据えると、この人口高齢化と社会構造の課題に早急に取り組む必要があるだろう。そして、政策対話を意味のあるものにするためには、乗り越えなければならない文化的、社会的価値観が存在している。
※この記事は、AIが筆者のポッドキャストを文字起こし・執筆し、筆者が編集したものです。