バングラデシュ

多くの犠牲者を生み出した「ラナ・プラザ」ビル崩壊事故から4年、つくり手と買い手の正しいあり方を考える

Photo: Creative Handicrafts

ファッションの裏側にある多くの悲劇から考える、生産者の人権問題

2013年4月24日にバングラデシュの首都ダッカ近郊でファストファッションの衣料品が多くつくられていた「ラナ・プラザ」ビルが崩壊し、1,100名以上が亡くなった事故。これを機に、世界中がファッションの裏側で生まれる問題を考えるようになり、今年で4年が経ったが、「ラナ・プラザの悲劇」以前にも実は多くの悲劇は生まれていた。

つくり手と買い手の正しい関係性とは何か、物をつくる過程において何が大事なのか、フェアトレードファッションブランド「ピープルツリー」を生み出した、グローバル・ヴィレッジ代表の胤森(たねもり)なお子氏に話を聞いた。

グローバル・ヴィレッジは、バングラデシュ労働組合の連合組織(National Garments Workers Federation: NGWF)を20年以上にわたって支援してきている。ラナ・プラザの崩壊事故発生以前から、NGWFを通じてバングラデシュの衣料品産業の労働者がいかに酷い状況に置かれているかを聞いていたと胤森氏は言う。

例えば2012年には100名以上が工場の火災で死亡するなど、似たような事故が何度も起きており、劣悪な労働条件の改善を求める労働者のデモも頻発している。グローバル・ヴィレッジは、そうした状況を変えるため、労働者を組織して地位向上の運動を続けるNGWFを資金面で支えている。

100万筆の署名活動への参加、生産現場での安全基準における協定

ラナ・プラザの事故をきっかけに、ヨーロッパの人権団体などが中心となって「工場の安全基準を守るように協定を結ぶべきである」と求める国際的なキャンペーンが始まり、世界中で署名活動が行われた。

その結果、100万筆以上の署名が集まり、繊維産業の国際労働組合組織インダストリオール(IndustriALL)とバングラデシュに工場を出している各国のファッションブランドの間で協定が結ばれた。その後の2年間で200ブランドが署名し、1,500の工場が安全監査を受け、安全措置がとられたという。

大事なのは働く人たちがどう扱われているか

数年前、ピープルツリーのアンバサダーでモデルの鎌田安里紗氏がピープルツリーの衣料品をつくっているバングラデシュのタナパラ・スワローズという団体を訪問し、ラナ・プラザの工場で働いたことのある女性に話を聞く機会があった。

彼女に以前と仕事をする上で何が違うか問うと、タナパラ・スワローズでは収入を向上させるためにスキルを磨くことができ、成長できる一方、ラナ・プラザでは、労働者はできるだけ単純化した作業を行うために、袖を縫う人はひたすら袖を縫うだけだったという。

自分のつくった部分が最終的にどのよう製品になるかも、どういう人が買うかも知らずに働く環境は、当然ながら仕事のやりがいも感じにくく働く上でのモチベーションが違うことが分かる。

「フェアトレードとは、労働者に高い賃金を支払うことだ」と単純化して説明されることがあるが、フェアトレードの意義はもっと幅広く労働者の地位向上を目指すことにある。たしかに、フェアトレードの生産者が受け取っている給与を同地域の他の仕事と比較すると3~5割多い傾向にある。しかし、もっと大事なのは、働く人たちがどう扱われているかということだ。これは、給与が安い高いという数字だけでは図れない、現場で根本的な人として扱われているかということである。

現場の安全面や衛生面はもちろん、快適に働けるか、子どもを預ける場所があるか、医療費のサポートがあるかなども、働く人を守る大事な要素だ。

フェアトレードでは仕事を発注するバイヤー団体とつくり手である生産者団体が対等な立場で長期的なパートナーシップを結んでいるので、こういった生産現場の労働環境に対して、バイヤー団体も関わって改善を図っていく。

つくり手の技術力が上がるように研修を行ったり、売れる商品を作るためにデザインや品質の向上させることも、バイヤー団体と生産者団体が連携して行うのがフェアトレードである。

選択肢のひとつにフェアトレードやオーガニックコットンを

フェアトレードはチャリティではなく、ビジネスの手法で人権や環境を守る活動である。ビジネスである以上、一般企業と同様、物を売らないと生産者に仕事は生まれず、より売れるためにはどうしたらいいか考えなければならない。

インドのクリエイティブ・ハンディクラフトという団体は、ムンバイのスラム地域の女性が収入を得られるように立ち上げられた縫製のグループだ。30年以上の活動を通じて今や170名の女性が働く13のグループを運営するまでになっている。4年ほど前にピープルツリーがクリエイティブ・ハンディクラフトと取引を開始した際、日本で販売するため付加価値の高いオーガニックコットンの製品をつくることを提案した。

GOTS(オーガニック・テキスタイル国際基準)でオーガニックコットン製品として国際的な認証を得るためには、原綿のオーガニック認証だけでなく、加工の各過程でも環境的・社会的な厳しい条件をクリアし、生産現場の労働環境や商品の管理の仕方などを整え、逐一記録して書類を提出する必要がある。これはクリエイティブ・ハンディクラフトにとってたいへん手間のかかる仕事だ。

しかし、商品の魅力を高めて売上を伸ばし、生産者の仕事を増やすことに繋がるのであれば是非取り組みたいと努力し、クリエイティブ・ハンディクラフトは2年前にオーガニック認証を取ることができた。バイヤーであるフェアトレード団体、つまりピープルツリーとの強いパートナーシップがあったからこその成果である。

グローバル・ヴィレッジは、フェアトレードの普及活動の一環として、今秋クリエイティブ・ハンディクラフトの生産者を日本に招くことを企画している。

アパレル企業のバイヤーにフェアトレードやオーガニックコットンの商品を仕入れてもらうことを促すため、アパレルの展示会でフェアトレードのセミナーを開催する予定だ。買い手を増やすことで、フェアトレードの恩恵を受けられる生産者が増えることを期待したい。

この記事は大竹萌音(Readyforキュレーター)が実施したインタビューをもとに書かれたものです。

フェアトレード生産者とバイヤーを繋ぐ!もっと仕事を増やしたい

グローバル・ヴィレッジは、5月31日(水)午後11:00までフェアトレードの生産者を日本に招き、セミナーを行うためのクラウドファンディングに挑戦しています。現在、資金調達に挑戦中です。

「I made your clothes」というメッセージを掲げるクリエイティブ・ハンディクラフトの女性。このメッセージは、ラナ・プラザ事故をきっかけに始まった、ファッションの裏側を考えようと呼びかけるキャンペーン「ファッション・レボリューション」の合言葉です。

プロジェクトやクラウドファンディングの詳細はこちらからご覧ください。

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