マラウイ

IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?

 

携帯電話やスマホを通り越して、IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ等、ここ最近の新たなテクノロジーの盛り上がり様は目を見張るものがある。そして、それらの新しいテクノロジーが途上国開発でどのように活用されるのか?というのも非常に興味深いところ。

そんな風に思っていたら、マラウイで幼児のHIV検査をよりスピーディに行うために、ドローンを使って検体を運んだり、その検査結果を運んだりという試みが開始された。スポンサーはUNICEF。

テクノロジーの発達によって、人々の生活が便利になったり豊かになったりというのは非常にありがたい事だと思いつつも、その発達が途上国にどう影響するのか?を考えてみると、決して良い事づくしではないと思う。

最近、野村総研が出している「ITナビゲーター2016年版」という本を読んだ。そのなかの記載を元に、その他日経新聞等の記事も参照しつつ、新しいテクノロジーが途上国に及ぼす影響を想像してみたい。以下、クォーテーション(””)で囲まれた部分は「ITナビゲーター2016年版」からの抜粋です。

 

 

IoT

2016年5月13日の日経新聞によると、「米IT大手シスコシステムズの試算によると、ネットワーク化されたデジタル機器が相互に対話する「インターネット・オブ・シングス(IoT)」によって2013年から22年までの間に世界で14兆4000億ドル(約1540兆円)の企業利益が生み出され、日本はこのうち7610億ドルを占める見通しだ。」とのこと。

盛り上がりを見せているIoTだが、果たして世界で14兆4000億ドル(約1540兆円)の企業利益のうち、途上国が手に出来るのはどれだけなのだろうか?

 

ビッグデータ

“調査会社IDCによるデジタルユニバース(地球上で生成されるデータ全体の世界)に関する調査によれば、2013年から2020年の間で世界の総データ量は4兆4000億ギガバイトから44兆ギガバイトへ拡大すると見込まれている”

なるほど。単位があまりにデカ過ぎて良くわからないが、とりあえず世界の総データ量は2020年には10倍位になっているということか。しかし、それらを牛耳るのはGoogle, Amazon, Appleといった先進国企業。実際、2016年5月12日の日経新聞では、EUがGoogleやAmazonなどの米国ネット企業に対しての取り締まりを強化しているという記事があった。ビッグデータの利用が一部の米国企業に独占されてしまうこと懸念してもいるということ。途上国は米国企業にデータを提供する以外に、どんな役割を担えるのか?どんなメリットを得られるのか?

ICTWorksに、USAIDがリアルタイムデータを途上国開発にどう活用出来るのかについて、事例を募集しているとの投稿があったが、どんなメリットを得られるのか?勿論、途上国支援をしている援助機関の立ち場からなら、より精緻なモニタリングが出来るとか、支援を集中すべき最も困っている地域が明確にわかる、といったメリットはあるが、援助の枠組み以外ではどんなメリットがあるのか?

 

3Dプリンタ(オンデマンド生産)

“オンデマンド生産のサービスモデルは、従来はメーカーが製造・在庫管理しさらに物理的な輸送手段を経て入手しなければならなかった交換用バーツを、ユーザー宅などにある3Dプリンターにデータを送信することで直ちに手に入れられるというものである。”

ここから想像出来るのは、これまで途上国で入手困難だった機材のスペアパーツが途上国でも作れるようになるという便利さ。さらに未来を想像すると、スペアパーツに限らず多くのモノがオンデマンド生産可能となる場合、輸送コストがかからない分、より安価で色々なモノが入手出来るようになる一方、途上国にはモノ作りのノウハウが全然培われないという負の側面も。また、先進国のメーカーとユーザー(のかなり近いことろ)の距離が縮まることで、途上国の輸入業者や仲買業者は仕事を失う可能性も。

 

ロボット

アマダ、金型で無人工場 — IoT活用で納期半減 —」という記事が2016年5月12日の日経新聞にあった。ロボット技術の革新は生産工場における人員削減に繋がる。そして、多くの途上国(日本のメーカーなら中国や東南アジア)における工場でも、人員削減が行われることは容易に想像がつく。

 

AI(人工知能)

“IBMのワトソンが金融機関のコールセンターに採用され始めている。顧客からの問い合わせに対して、的確に回答を返すための回答候補リストを、可能性が高い順から表示したり、問い合わせの断片的情報から、オペレーターが追加的に聞くべき内容を指示したりするシステムである。”

“1ヶ月以上かかるような金融や情報通信分野の高度なコンタクトセンター業務であれば、ワトソンの導入実証実験の結果、業務効率が10%程度向上することがわかったとされる。2050年にかけては、一部のコンタクトセンター業務は完全自動化され、人手を介さずに回答されるようになっていると想定している。”

コールセンターといえば日本に取っては中国や東南アジア、米国にとってはインド、最近ではバングラデシュも。そして、モロッコ等の仏語圏アフリカが対ヨーロッパのコールセンター受注をターゲットにしていたりもする。しかし、AIの進歩によっては、わざわざ途上国にコールセンター業務を依頼する必要がなくなったり、依頼したとしても今よりも遥かに少ない雇用しか生み出さないのかもしれない。

以上のように見てみると、敢えて批判的に想像してみたからというのもあるが、あまり明るい未来が見えてこないと思うのは自分だけだろうか・・・。以前の投稿「ICT4DからDigital Develpmentへ」でも言及したように、結局、途上国と先進国の格差は、新たなテクノロジーによってさらに広がって言ってしまうのか?

“人口知能は、人間の能力を代替する機能である以上、代替される人間は、生き残るために、さらに高い能力を要求されるという皮肉な構造になっている。”

ということが「ITナビゲーター2016年版」に書いてあったが、まさにそのとおり。代替されないためには、高度な能力が必要。途上国では今後新しいテクノロジーに代替されない人材育成をどう進めて行けるのかに、今後がかかっているのかもしれない。

 

ICT for Development.JPより転載

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