東南アジア

深刻化する「格差」問題

Photograph: Ippei Tsuruga

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)がアジア太平洋地域における持続可能な世界共通目標(SDGs)の2030年達成に向けた進捗状況を発表した。

その中で気になったことが一つある。それは東南アジアにおける格差問題の悪化である。全部で17ゴール(目標)あるSDGsの中で、10番目に位置する「2030年までに格差を縮小する」という人類の共通目標は大方の期待に反して、逆に増加に転じてしまったのだ。格差問題は、底辺に追いやられた人々の心に妬みや満たすことができない空洞を作り、行き場もなく追い詰め、犯罪や反社会的な行動を助長しかねない。

近年、アジア、その中でも特に東南アジアの経済成長は他の地域に比べて著しく、大きな飛躍を遂げた。その結果、貧困人口や慢性的飢餓人口は1990年にはアフリカとほぼ同じぐらいの比率で全人口の30%を上回っていたのが、2015年にはその3分の1以下に減少した。

その反面、経済成長がもたらした富はすべての人々に公平に還元されておらず、一部の資本家や富裕層がさらに富を得る結果になった。UNESCAPの統計によると、米国では全国民の上位20%を占める富裕層が国家の富の87%を所有しているという、いかにも米国らしい状況があるが、それに大きく劣らず、中国、インドでは同じく78%、タイで70%、インドネシア64%、そして日本でも55%という結果が出ている。

日本のように社会福祉制度が浸透し、貧困世帯への生活保護や国民健康保険、失業保険、高齢者への年金制度などのセーフティ-ネットがある程度確立していればいいが、多くの開発途上国ではそうはいかない。

例えば日本と同じように急速に高齢化が進むタイにおいて、65歳を過ぎて年金をもらえる人の多くは、ごく一部の元公務員や積み立てができた大手の元会社員たちで、それ以外の大半の老人たちは、ごくわずかな政府からの補助を除いてほとんど収入のあてがない。特権階級や富裕層の利益を重視した税制度や根強くはびこる汚職の体質が、富める人たちから税金という形で富を回収し、恵まれない人たちに再配分する機会を与えず、事態をさらに難しくしている。

日本を含めて、アジアの格差問題に立ち向かうには、政府に任せていたら限界があるだろう。一人一人が隣人のことを思いやり、助け合い、分かち合う気持ちとその実践がなければ「格差」という、人類に課せられた最も重大なチャレンジを克服できないだろうと思う。

THE POVERTIST 2018年8月1日号 | The Povertist

残された課題 2018年8月1日号 暗い影を落とした金融危機の記憶はとうの昔に人々の脳裏から離れ、好況に沸く世界経済の恩恵を多くの人々が笑顔で迎えている。経済成長が貧困削減を推し進め、広がる格差に歯止めを掛ける政策は後手に回っている。解決へ向かう開発課題と、目標から離れていく開発課題。対照的な両極に光を当て、政策を今一度見つめなおす意義は残されている。 THE …

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