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社会保障が開発途上国の貧困撲滅に不可欠-政治経済の4つのポイント

Photograph: Ippei Tsuruga
Photograph: Ippei Tsuruga

中所得国では自力で貧困から抜け出すことのできる全ての貧困層が貧困から脱出し、貧困状態に残された人々が社会政策を必要とするだろう(Raj M. Desai 2015)。2030年の貧困撲滅へのアプローチを考えるとき、経済成長を促す政策だけで全てが解決すると考える人々が現れるだろう。そのとき、この一文を突き付けてほしい。今回はブルッキングス研究所ラジ・デサイ研究員の見解を簡単に紹介する。

中所得国では「経済成長=貧困削減」はウソ

最近出版された 『ラストマイル(The Last Mile in Ending Extreme Poverty)』でデサイは「社会政策と絶対的貧困の撲滅(Social Policy and the Elimination of Extreme Poverty)」と題する論文を寄稿した。彼によれば、社会政策は貧困撲滅へ重要な役割を果たす。そして、開発途上国で社会政策を拡充するためには政治経済がカギとなる。

The Last Mile1990年から2010までに、開発途上国の貧困率は22%まで半減し、主な要因は労働収入の改善だった。しかし、これは過去の出来事に過ぎず、今世紀の国際開発には参考にならないかもしれない。労働所得が消費水準の改善に与える影響は、中所得国ではかなり小さくなるといった研究がある。これは容易に貧困から「卒業」できる人々が貧困から抜け出し、自力の無い最貧層が脆弱なまま社会の底辺に取り残されることが原因と考えられる。

たとえそれが正しいとしても、適切な社会政策と成長を組み合わせれば絶対的貧困の撲滅は技術的に可能だと、デサイは主張する。しかし、政治経済が重要な課題として立ちはだかるだろう。対象世帯を厳格にターゲティングする社会保障システムは、非貧困層からの支持を受けることはできない。これは社会保障の拡充の大きな阻害要因となる。一方、国民すべてが裨益する社会保障システムは、非貧困層からの支持を受け、持続的に機能していくだろう。

貧困撲滅と社会保障の4つのポイント

デサイは社会保障が貧困撲滅へ重要な役割を果たすとしたうえで、4つのポイント挙げている。

1. 包摂的成長(Inclusive Growth)

所得向上と不平等の改善をバランスよく達成することが、貧困削減には効果的。貧困率が15%以上であれば、労働所得の向上が貧困削減には効果的であり、15%以下の場合は社会保障が重要な役割を果たすとする研究がある。

2. 社会保障システムの構築(Institution Development)

社会保障システムの構築プロセスは、20世紀以前の福祉国家と現在の低中所得国とでは異っている。たとえそれらの国が同じ経済水準であったもだ。現代の低中所得国の社会保障システム構築はゆったりとしたものにならざるを得なかった。グローバリゼーションの加速に伴う国際競争の激化、非正規労働者(インフォーマル経済)の比率が大きいことなどをとっても、かつての福祉国家とは前提条件がずいぶん異なっている。その結果、予算の制約が生じ、社会保障の対象世帯を絞る必要ができた。これがターゲティングプログラムが開発途上国でブームとなっている理由である。

3. 普遍性の欠如(Lacking Universality)

ターゲティングによって低所得層を社会保障の対象とすることは同時に、中所得層を排除することになり、政治的に不安定な状況が生じる。歴史的に見れば、注所得層は社会保障の拡充に重要な役割を果たしてきた。社会保障の拡充の最大の障壁は国内政治であり、所得再配分プログラムの規模や期間は国内政治によって決められる。政治家や官僚の国民からの評価がそれによって大きく左右されるからだ。

4. 所得階層を超えた結束の強化(Cross-class Solidarity)

貧困撲滅へ向けた最後の旅路(ラストマイル)を無事終えるためには、社会保障システムを通じて貧困層と非貧困層の間に連帯感を生む必要がある。それは社会保障を適切に運用する国家を作るためには不可欠なことだ。援助を提供するドナーは、貧困削減プログラムの対象を貧困層に絞るため、社会保障プログラムにターゲティングを組み込もうとする傾向がある。貧困削減が目的なのであれば、これで十分だろう。しかし、最終目的が貧困の撲滅なのであれば、開発途上国はもっと網羅的で普遍的な社会保障システムを構築し、国民が直面するリスクや脆弱性に取り組んでいくべきだろう。

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